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薬種狩り 三の1

 都には どんな人間だって居る。
 少々の変わり者なら、 笑ってやり過ごすのが 都人の粋な振る舞い というものだ。
 だが そんな都人も、
 その二人連れには、 通りすがりに 思わずちらりと目を走らせる。

 山から迷い降りてきた獣のような、 野生の空気をはらんだ 痩身そうしんの男と、
 背中いっぱいの大荷物を こともなげに背負って歩く、 まだ子供らしい 小柄なもう一人。
 二人とも 猟師のような 山歩きにこそふさわしい恰好をしている。

 痩身の男の方は、 腰に山刀を下げていた。
 旅の汚れか、 みすぼらしくさえ見える。
 花の都大路には ひどく珍しい通行人だ。

 特に 二人が歩いている辺りは、
 田舎から出て来たおのぼりさんが好んで立ち寄るような場所ではない。
 芝居小屋や 見世物小屋も無く、
 土産になる都名物を売る店も、 宿屋さえ見当たらない。
 昔ながらの大店が ゆったりと店を構えているばかりだ。

 二人は そんな店の一つ、
 「草楽堂」と彫られた板看板が掛かる、 ひときわ大きい店の入り口をくぐった。
駄狗だくだ。 旦那は居るか」
 店の中の誰にともなく名乗って、 痩身の男が声を掛けると、
 番頭が すかさず立ちあがり、 土間続きの奥に二人を通した。

「貴重な薬種が手に入りましたか。
 前回の荷は 少なかった。 今年はどうなんです」
 番頭が 嬉しそうに揉み手で あるじのもとへ案内する。
 男にではなく、 貴重な薬種に向かって 愛想を使っているように見えた。
「量が少なければ、 値を上げろ。 得意なのだろ」

 店先の客が、 やりとりを聞いて 鼻を鳴らす。
「あれが 例の薬種狩りかい。 案外商売上手らしい」

 草かんむりに楽と書けば 薬になる。
 草楽堂は 薬屋だった。
 屋号は洒落しゃれだが 内実はちゃんとしている。
 都近辺で採れる薬種は もちろん取り揃えてあるが、
 先代の頃から、 遠く離れた地方や、
 行き来の疎遠な場所で使われている薬種を 取り寄せるようになり、
 今では都一番、というより この国一番の品揃えができる薬屋になった。

 おまけに 後を継いだ店主が、 ひとかたならぬ凝り性で、
 評判の良い薬師や医師と交友を広め、
 共同で 実際の効能を資料にまとめる事を始めた。

 古くから使われていた薬でも、 さして効能が認められないものや、
 評判ばかりが高くて 全然効いていない薬は、
 店頭から姿を消したり 隅に追いやられたりしており、
 草楽堂が勧める薬は間違いがない、 と信用も勝ち得ている。
 他の薬屋や地方からも 薬種を求められる事が多くなり、
 問屋に近いあきないになってきていた。

「旦那様、 駄狗さんが」
 番頭が声を掛ければ、
 どこもかしこも丸く出来ているような草楽堂主人、 左右衛そうえが ころりと振り向いた。
「やあ、 おかえり」



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