薬種狩り 二ノ2
「玲は 天狗森に行った事があるか」
両手に付いた土を パンパンと払い落し、
穂田里は立ち上がりながら聞いてみた。
「無いな。
どうせ天狗苺しか使える薬草はないと聞いている。
しかも 天狗苺は 冬枯病にしか効かないときている。
無駄足は好きじゃない」
にべもない返事が返る。
「月の雫花はどうだ。 万能薬らしいぞ。
不老長寿の薬だという話を聞いた事もある。
それよりなにより、 この世のものとは思えないほど美しいと言うじゃないか。
見たくはないか」
恐る恐る話し始めた穂田里が、 しまいには 夢見るようにうっとりと微笑んだから、
玲は 驚いたように目を丸くした。
あげく、 じろじろと上から下まで視線を往復させる。
「まさか そこまで馬鹿とは思わなかった。
いい年をして 子供だましのおとぎ話を本気にするとはな」
眉をひそめ、 あからさまに 侮蔑を含んだ言葉を浴びせられたが、
そんなことは慣れっこだ。
それでも少し恥ずかしそうに 穂田里はつぶやいた。
「見たんだ」
「昨夜の夢か」
「葉影小人草」
「ふん、 可愛らしい夢だな」
「風吹き蔓」
「それは良かった」
「だから、 きっとあると思うんだ。
月の雫花。 一緒に見に行かないか。 もうすぐ満月になる」
「…………」
玲の手がさっと伸びて、 穂田里の額に押し当てられた。
背丈に差があるから、 おでこにつっかい棒をしているように見える。
「なあ、 行こうよ」
玲の手を額にくっ付けたまま、 へにゃりとした笑顔で誘う。
「熱は無い。 大丈夫だ。
行きたいなら 一人で行って来い。 夜遊びは内緒にしてやる」
ついでに おでこをぴしゃりと叩いて、 玲は話を終えようとしたが、
穂田里は いつになく諦めが悪かった。
「お姉ちゃんとの夜遊びにも すこぶる心 惹かれるが、 違うんだ。
一緒に 月の雫花を探しに行こうよ。
一人より二人の方が見つけやすいだろ。
確率的に」
「少しは正気が残っているんだな。
しかし 課題が出ていたはずだが、 大丈夫なのか。 期限があるぞ。
そんな事をしていて間に合うのか」
「あ~~~っ、 忘れてた。
その次の満月に行こう。 なっ、 なっ。
月夜の天狗森は 幻想的だと思うぞ。 たぶん。
一人じゃ さすがにちょっと怖いんだ」
「怖い?」
「うん。 玲は 怖いものなど何も無さそうじゃないか」
玲は 意外な事を聞いたというように目を見開き、 すぐに渋面をこしらえた。
「僕を無神経みたいに言うな。 怖いもの知らずはそっちだろう」
「えーとだな、 わが友よ。
親友のお前にだけ 俺の秘密を教えよう」
「断る。 墓場まで抱いて行け。
だいたい 何時から親友になった。 僕は初耳だ」
玲は いつもどおりにそっけない。
「何時だっていいじゃないか。 細かい事は気にするな。
それより 俺の秘密を知りたくないのか」
「金輪際知りたくない。 土に汚れた手で触るな」
「わっ、 ごめん。 洗う。 洗うから手をつないで一緒に行こう。
あれ? 何赤くなってるんだ。 照れるなよ」
「違うっ! 怒っているのだ。
まったく、 お前と話すと調子が狂う」
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両手に付いた土を パンパンと払い落し、
穂田里は立ち上がりながら聞いてみた。
「無いな。
どうせ天狗苺しか使える薬草はないと聞いている。
しかも 天狗苺は
無駄足は好きじゃない」
にべもない返事が返る。
「月の雫花はどうだ。 万能薬らしいぞ。
不老長寿の薬だという話を聞いた事もある。
それよりなにより、 この世のものとは思えないほど美しいと言うじゃないか。
見たくはないか」
恐る恐る話し始めた穂田里が、 しまいには 夢見るようにうっとりと微笑んだから、
玲は 驚いたように目を丸くした。
あげく、 じろじろと上から下まで視線を往復させる。
「まさか そこまで馬鹿とは思わなかった。
いい年をして 子供だましのおとぎ話を本気にするとはな」
眉をひそめ、 あからさまに
そんなことは慣れっこだ。
それでも少し恥ずかしそうに 穂田里はつぶやいた。
「見たんだ」
「昨夜の夢か」
「葉影小人草」
「ふん、 可愛らしい夢だな」
「風吹き蔓」
「それは良かった」
「だから、 きっとあると思うんだ。
月の雫花。 一緒に見に行かないか。 もうすぐ満月になる」
「…………」
玲の手がさっと伸びて、 穂田里の額に押し当てられた。
背丈に差があるから、 おでこにつっかい棒をしているように見える。
「なあ、 行こうよ」
玲の手を額にくっ付けたまま、 へにゃりとした笑顔で誘う。
「熱は無い。 大丈夫だ。
行きたいなら 一人で行って来い。 夜遊びは内緒にしてやる」
ついでに おでこをぴしゃりと叩いて、 玲は話を終えようとしたが、
穂田里は いつになく諦めが悪かった。
「お姉ちゃんとの夜遊びにも すこぶる心
一緒に 月の雫花を探しに行こうよ。
一人より二人の方が見つけやすいだろ。
確率的に」
「少しは正気が残っているんだな。
しかし 課題が出ていたはずだが、 大丈夫なのか。 期限があるぞ。
そんな事をしていて間に合うのか」
「あ~~~っ、 忘れてた。
その次の満月に行こう。 なっ、 なっ。
月夜の天狗森は 幻想的だと思うぞ。 たぶん。
一人じゃ さすがにちょっと怖いんだ」
「怖い?」
「うん。 玲は 怖いものなど何も無さそうじゃないか」
玲は 意外な事を聞いたというように目を見開き、 すぐに渋面をこしらえた。
「僕を無神経みたいに言うな。 怖いもの知らずはそっちだろう」
「えーとだな、 わが友よ。
親友のお前にだけ 俺の秘密を教えよう」
「断る。 墓場まで抱いて行け。
だいたい 何時から親友になった。 僕は初耳だ」
玲は いつもどおりにそっけない。
「何時だっていいじゃないか。 細かい事は気にするな。
それより 俺の秘密を知りたくないのか」
「金輪際知りたくない。 土に汚れた手で触るな」
「わっ、 ごめん。 洗う。 洗うから手をつないで一緒に行こう。
あれ? 何赤くなってるんだ。 照れるなよ」
「違うっ! 怒っているのだ。
まったく、 お前と話すと調子が狂う」
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