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迷惑な子ども――7

 五日目になると、 悪ガキは 昼過ぎにはやって来た。
 ほとんど助手のように わがもの顔で陣取っている。
 その内、 覗き込む客に、 申し込み台に置いてあったチラシを 渡したりもしはじめた。
 まずいことをしそうな時は、 注意すると、 おとなしくいう事を聞く。
 雇ったつもりはないのだが……。
 高橋はというと、 余計な口出しはせず、
 いつの間にか、 自然に 悪ガキとなじんでいた。


 最終日、 旅館の女将さんが、 私も撮って と客になった。
 子ども写真館だから、 修正はしないのだ と説明したが、 かまわないという。
「知ってるわよ。
 去年の男性カメラマンさんも、 うちに泊まってくれたもの」
 言われてみれば、 この辺りでは 他に旅館が無い。
「お世話になりました」
 やさしい笑顔が撮れた。

 高橋は、 淡々と仕事をこなした。
 東京の大学生よりも、 しっかりしている。

 夕方になって、 悪ガキが来た。
 息せき切って 駆けつけた。
 撮影の合間に、 さりげなく、
 使わないものから片付けながら、 店じまいの体勢に入ると、
 目ざとく見つけて、 寂しそうな目をする。
 星子は 気付かないふりをした。
 間もなく ミッションは終わる。
 閉店間際には、 撮影機材をしまえば、
 簡単に荷づくりを完了して 発送できるまでに段取りが済んだ。

「お疲れさん。 すごくよくやってくれて、 助かった」
 閉店を報せる音楽が鳴ると同時に、 高橋に、 労いの言葉を懸け、
 店長の所へ行くように指示した。
 バイトの精算は そちらに任せてある。
 たちまち、 小さなスタジオは姿を消した。
 手慣れた仕事だ。

 お客をせかせるように鳴る音楽の中で、
 ぽつりと取り残されたような 悪ガキが立ちすくんでいた。
「ねえ、 らいねん、 またくる?」
 小さな瞳が、 心なしか濡れていた。
 可哀そうだが、 嘘はつけない。
「仕事だからね。
 会社の指示があれば 来るかもしれないけど、 難しいな。
 たぶん、 他の人が来ることになると思う」
 今回は、 イレギュラーなスケジュールなのだ。
 この店には、 男性カメラマンが来ることが多い。

「きっときて。 やくそくして」
「約束は できない」
 仕事が無ければ、 何一つ関わり合いになる場所ではないのだ。
 個人的に来ることは考えられない以上、 無責任な約束はできなかった。
 悪ガキは真剣だ。
 嘘は結局、 この子を傷つける。

「まってるからー。 きっと、 まってるからー」
「待たなくていい」

 星子は想像した。
 きっと、 いつもいつも母親を待って、 待ちくたびれて、
 近所で 悪さをしていたのだろう。
 だから、 待たなくていい。

 本来、 子どもは待たなくていいのだ。
 待つのは 大人の仕事なのだ。

 まかれた種に水をやり、 日光を当て、
 芽が出て 伸びるのをじっと待つのが、 育てるという事なら、
 成長しようとする子どもを見守り、 待ってやるのが大人の務めだ。

 今回、 初日に、 バイトの女子高生、町に芽生えたやる気を、 星子は見逃した。
 たったチラシ二枚を待ってやれなかった。
 情けない大人だ。
 今夜の夜行で、 この地を離れる。

 悪ガキの、 その子の抱えた寂しさが、 ほんのちょっぴり紛れる間だけの刹那を、
 気まぐれに待っただけの自分を、 もう、 待つんじゃない。
 言葉に乗せられない想いを、 精いっぱい態度であらわして、
「もう閉店だよ。 家に帰りなさい」
 明るく言ってやった。

 明日になったら 気付くだろうか。
 星子が 名前さえ聞いてやらなかったことに。
「まってるからーっ。 まってるからーっ」
 星子は 振り向かなかった。


                



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1508: by lime on 2013/07/27 at 21:29:58 (コメント編集)

なんだかしんみりと、物悲しいけど、とてもいいお話だったと思います。
全く何も決着はつかないんだけど、そこが、袖すりあわせた、ほんのつかの間の出会いの、事実。
その子供に起こってることを、星子が理解し、自分に欠けていたモノを、理解した、そんなひと時だったんですね。

その子供が、また少し大きくなって自分で気づくまで、どれくらいだろう。ちょっと切ない感じが余韻に残ります。

1509:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2013/07/27 at 23:22:40 (コメント編集)

いらっしゃいませ。
切なくなって頂けましたでしょうか。

今回、長編ファンタジーとは毛色が変わった作品になったかも。
たまには、短編でこういうのもどうでしょう。

1510:少し雰囲気の違う世界 by 大海彩洋 on 2013/07/28 at 17:46:49 (コメント編集)

短い中にたくさんの人が去来した感じで、それぞれの人生の一瞬がここで交錯したみたいな、奥深い短編でした。それが写真という、これもまた一瞬を切り取るもので見事に縁どられているというのか。
モチーフが本当にうまいなぁと思いながら読ませていただきました。しのぶさんらしく説明が少なく、さらさらと語り淡々と進むのに、それで十分に伝わります。落ちない落ちの余韻を堪能しました。

1511:Re: 少し雰囲気の違う世界 by しのぶもじずり on 2013/07/28 at 19:54:37 (コメント編集)

短編なのに、登場人物がやっぱり多い(笑)
ギャグ少なめで、シリアスにやってみました。

たまには、こんなのも書きたくなるのです。
ラストシーンは「comeback シェーン」のイメージで。(古すぎ?)

1512: by 茶坊たがわ on 2013/07/28 at 22:14:39

結末は納得できました。

”本来、 子どもは待たなくていいのだ。
 待つのは 大人の仕事なのだ。”
と自分に言い聞かさなければならいない星子の切なさと、優しさが解ります。

ありがとうございました。

1513:Re: 茶坊たがわ様 by しのぶもじずり on 2013/07/29 at 10:06:47 (コメント編集)

ありがとうございます。安心しました。

解決の無いエンディングも、たまにはいいかな?
おい、たまになのか? という心配も……。
そういえば、「天州晴神霊記」も解決してない。

次回作は、なんとか解決したいと思います。

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