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赤瑪瑙奇譚 第四章――1



「カムライには勿体ないほど 見事な姫君だな」

 しかし、 謁見の挨拶を終えたカリバネ王は、 側近のウガヤの前で ため息をついた。
 おそらく 初めて心を寄せる女性にめぐり合ったというのに、 息子が不憫な気がした。
 話から察する女性とは、 ユキア姫は 正反対に思える。
 顔の傷を覆面で隠し、 男の子のような身なりで 剣を振るい、 馬で駆け巡り、
 ドスの利いた声で 話す娘とは、あまりに 違いすぎる。

「陛下、 今この時期に、 カムライ殿下を 廃太子にすることは 出来ません。
 それに、 恐れながら 四人の王子様の中で、 コクウの皇太子には 最適人であることも確かです」

 王は、 もう一度 ため息をついた。
「カムライの様子はどうだ」

「逃げ出さないように、 部屋に閉じ込めて 見張っております。
 式典まで、 目を離さぬよう、 厳しく命じてありますから ご安心ください。
 会わせてしまえば 何とかできるでしょう」
「どうかな、 そうだといいが」

 カリバネは、 今は亡き最愛の人、 カムライの母親を思い出し、
 二人の子が そうなって欲しくないようにも思えて、 珍しく うろたえた。

「マサゴからは 商業組合長が到着しました。 まもなく 挨拶に罷り越します。
 昨日 モクドから来た巫女の長は、 迎賓館ではなく、 メギド公のお屋敷に入られました。
 公が 高名な巫女殿と親交を深めたい と仰いまして、 持っていかれてしまいました」

 カリバネは、 片眉を上げた。
「あの 強力なまじない師の 巫女殿をか。
 軍師のおまえからすれば、 まじないは 戯言(ざれごと)にしか 思えんのだろうな」
 涼しげな顔で 報告しているウガヤに向かって、 渋面をつくる。

「いいえ、 人には 心というものがありますから、 心理的効果は絶大です。
 我が軍が 何度もしてやられたのは 確かですよ」
 しかし、 ウガヤは 相変わらず 涼しげな顔で、 にっこりと笑う。

 その顔を見ながら、 カリバネは 思い出した。
 ウガヤが来たのは、 最初の妻が 亡くなった後だった。
 知らないのだろう。 彼女が モクドの巫女だったことを……。
 カムライは 確かに強いが、 それだけではない。
 戦いの中で 吃驚するほどの鋭い勘を 閃(ひらめ)かせた。
 あれは、 妻の血だ。


「巫女殿、 おくつろぎいただいていますかな。 ご高名は 聞いておりますぞ」
 メギド公は、 巫女イマナジの滞在する部屋に入ると、
 言っている言葉にそぐわない尊大な態度で 話しかけた。

 イマナジは 丁寧に 滞在の礼を述べる。
 見た目には、 ただの気のいい老女にしか見えない。
 巫女の長といっても この程度かと思うと、 メギドの応対も つい ぞんざいな扱いになる。

「いや、 せっかく わしの屋敷におるので、 一つ 占いでもしてもらおうか と思うての」
 どかりと腰を下ろして、 イマナジを 品定めするように 眺めた。

「残念ながら 占いはしていません。 やっても 当たりませんので」
「いや 謙遜は結構。 今目論んでおる壮大な計画が、 うまくいくかどうか 占ってくれ」
「ほう、 どんな計画ですか」
「それは秘密じゃ。 うまくいくかどうかだけ 占ってくれたらよい」

 聞くまでは帰りそうも無い様子に 諦めたのか、
「分かりました」
 と言い、 そのまま無言の時が流れ、 ややあって、 おもむろに口を開いた。

「目的のものは 守られています。 ……鮮やかな色の……石、
 その石がある限り 手が出せないでしょう」

「なんだと!  石とはなんじゃ。 鮮やかな色とは 何色じゃ」
 気色ばんで 詰め寄ったメギドに、 イマナジは薄く笑って、 一拍の後 答えた。
「緑色に輝く、 美しい宝玉」

 メギドは礼も言わずに、 ぶつぶつと独り言を呟きながら 帰っていく。
「……宝玉か ……それなら ……ありそうだな ……念のため 確かめねば」

 メギドが いなくなると、 イマナジは 笑い出した。
 占いは、 やっても 当たらないと言った。

 未来は 変えられる。
 努力、 根性、 希望、 情熱、 祈り、 いろいろなことで 変わっていく。
 運命もまた 然り。

「なんとも がさつなお方よのう」


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by まとめwoネタ速neo on 2012/05/25 at 04:32:16

「カムライには勿体ないほど 見事な姫君だな」 しかし、 謁見の挨拶を終えたカリバネ王は、 側近のウガヤの前で ため息をついた。 おそらく 初めて心を寄せる女性にめぐり合ったと

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コメント
100: by ポール・ブリッツ on 2012/05/24 at 17:49:45 (コメント編集)

メギド公、巫女に計画の成否を占ってもらうとは、首謀者にしては、軽率な感じがします。

後ろに誰かいるのかなあ。

101:Re: ポール・ブリッツ様 by しのぶもじずり on 2012/05/24 at 19:03:12 (コメント編集)

「メギド公ってどんな人? 街角インタビュー」

職人Aさん: とにかくガサツな親父だからねえ。たいしたことは考えてないと思うよ。

商人Bさん: 御家柄だけは良いんです。王の叔父さんですから。でもねえ。

メギド家の下女Cさん: 乱世では出番が全くありませんでしたでしょ。ほら、ご武勇の一つも無いですし、
              不細工な姫様ばかりで。ですから、目立つ事をなさりたいのではないかしら。
              以降オフレコ。

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