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天州晴神霊記 終章 祝言――1

 斎布は、 どん底まで落ち込んだ。
 ほんのちょっぴり、 ドキドキしただけだ。
 ワクワクにまでならなかった。
 苦しいばかりで、 ちっとも楽しくなんかない。
 いや、 楽しかったのかもしれないけれど、 訳が分からない。
 物語で読むより、 恋は楽じゃない。

 その上、 大問題があった。
 仕方がなかったとはいえ、
 霧呼紐が 意富美に切られて、 バラバラになってしまった。
 代わりを作ってもらおうとしたら、 すぐには無理だという。

 霧呼草が 花を咲かせた後に出てくる草でなくては、 霧を呼ぶ紐は作れないらしい。
 およそ十年に一度しか 花をつけないといわれる霧呼草は、
 斎布が霧呼姫だと判明してから、 まだ一度も咲いていない。
 だから 予備は無い。

 出来損ないの霧呼姫から、 無用の長物になり下がった。
 婚礼を断る口実が、 根こそぎ無くなった。
 天州晴を護らなくてはならないから 嫁にはいかない、
 そう言えばよかった と気付いたが、 今となっては、 まったくの後知恵だ。

 こうなったからには、 三年間、 山の中で おとなしくしている他はなさそうだ。
 霧呼紐があれば、 頑張って修行とか勉強とかして、
 『できそこない』がつかない霧呼姫になれたかもしれないが、 そうもいかなくなった。
 霧呼草が 花を咲かせてくれるのを待つしかない。

 せめて、 些細な事で動転してぎくしゃくしたりしない、 落ち着いた人間にはなりたいものだ。
 何が起こっても 「おっほっほっほ」と 余裕をかます大人になるのだ。
 そうだ、 それを目標にしよう。


      *      *      *


 抜けるような秋晴れの日、
 斎土府の広殿で、 婚儀が執り行われることになった。
 昔は 宮中の神事に使われていた広殿である。 広さに問題はない。
 大内裏の端に位置している為、 夏の騒動で被害を受けていないのも丁度良い。

 一番の問題は、 一夜姫が すべて取り仕切ると言いだしたことだった。
 広殿を使う以上、 反対はしにくい。
 一夜姫その人を直接知っている人間は、 誰もが危惧したが、
 古式ゆかしい 伝統にのっとった婚儀にすると言い出して、 胸を撫で下ろしたのだった。
 『古式ゆかしい』と『傍若無人なド派手』は、
 遥かに遠く離れて 交わることはないと確信したのだ。
 甘い。

 一夜姫は 冶部省の尻を叩いてこき使い、 とうの昔に隠居した老女を召しだし、
 こだわりの『古式ゆかしい』に一路驀進(ばくしん)していった。



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