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天州晴れ神霊記 第九章――10


 何も起こらなかった。

 見れば、 丸太には 一本の紐がぐるぐる巻きになっている。
「瓶子からこぼれた水で、 霧呼紐がびしょ濡れになりました。
 ちょうどよかったので、 邪気を祓っておきました。
 何も残っていませんよ」
 斎布が 静かに言う。

 意富美は、 祭壇にあった剣を抜き、
 一刀のもとに紐を切り落としたが、 煙一筋も出てこない。
 斎布が言うとおりだ。
 邪気の依り代に使われた丸太は、 ただの焦げた丸太になっていた。
 意富美は、 力ない乾いた笑いを上げたかとおもうと、
 自らの首を掻き斬った。

「大神官様―っ」
 大副の悲しい叫び一つが、 死出への手向けとなった。


 大神殿の各所で、
 何も知らぬ神官たちが 不審者を捜したり、 気絶したごろつきを運び出したりしているのだろう。
 静まり返った奥殿に、 遠いざわめきが聞こえる。

 帝の穏やかな声が、 大副をいくぶんか正気づかせた。
「大神官は、 天州晴を護ろうとして、 秘儀のさなかに命を落とした。
 残念に思う。
 良いか、 そういう事だ。 そなたの胸一つに納めよ」
「あ、 ありがとうございます」
 涙目で礼を言う大副に向かい、 帝は鋭く重ねた。
「勘違いするでない。
 大神殿の為ではない。 民の平穏の為だ」

 さらに恐れ入る大副を余所に、 志信が 場違いな愚痴をこぼした。
「あ~あ、 地味だったなあ。 斎土様ががっかりするぞ」
 帝も 一緒になって 困った顔になる。
「そうだな。 あの子は 派手な事が大好きだからなあ。
 阿古屋騒ぎの時も、 術者が巨大化しなかったのは趣に欠ける、
 と文句を言っていたくらいだからなあ。
 きっと がっかりする」

 やっぱり 宗靭が言っていたことは本当だったのか。
 斎布は 肩を落とした。
 伝説になるには、 派手さが足りない。
 巨大化は無理としても、 今後の課題だ。

「しかし、 騒ぎが大きくなってから鎮めるよりも、 未然に防ぐ方がずうっと良い。
 平穏な日々は そうして維持されるものだ。
 本当に国を救う働きは、
 往々にして 喝采を浴びることなく、 地味~な積み重ねであることが多い。
 この度、 巨大妖魔が大神殿を破壊していれば、
 極光殿の時よりも 大騒ぎになったであろう。
 民の不安は いかばかりであったことか。
 それを考えれば、 地味な事など なにほどのこともない。
 鬼道門斎布が、 間違いなく天州晴を救ったことは、 余が 確かに覚えておこう」

 帝が、 最後は、 いつもの笑顔で締めくくる。

「へっ?」
 せっかくいい場面なのに、 おかしな声を出した者が居た。
 帝は、 そちらにも労いの言葉を掛ける。
「おお、 名探偵の居候で 使いっ走りをしているというのは、 そなたたちだな。
 見事な働きであった。 褒めてとらす」

 帝の言葉を聞き流して、 四郎五郎は 斎布を見つめた。
「これ、 褒美をやりたいが、 斎布は駄目だぞ。
 近々、 天州晴一美しい男と婚儀をすることになっている」
「ふへっ」

 奇妙な声とは別に、 閼伽丸が大声を上げた。
「まさか! 奇御岳二郎三郎様とですか」
「そうだ。 まあ、 色々あるのだ」
 陽気な声の後ろで、
 斎布は、 苦しさを振り切り、 勇気を振り絞って睨み返した。

「そうよ。 色々あるのよ。
 がんばったのに 事態は変わらなかったり、
 個人的な目論見は、 どうなっちゃったのか 訳が分かんなくなっちゃったり、
 家出されるほど嫌われたり、
 んんんー、 もう、 やだ」
 自分でも 何を言っているのか分からなくなった斎布の愚痴が、
 大噴火を起こした。

 四郎五郎は、 奥殿を飛び出し、 猛然と走り去った。
 閼伽丸が、 やれやれとあとを追う。
 取り残された斎布が 呟いたのを知らず。

「なに、 駄目押し?」



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コメント
1450: by キョウ頭 on 2013/07/11 at 22:30:42

帝、肝が据わっていましたねぇ。
「やる時はやる」…そりゃモテますわな

にしても、何故そうも巨大化にこだわる?w

1451:はじめまして by こちたろう on 2013/07/11 at 23:23:21

こちたろう日記のこちたろうです。訪問ありがとうございました。内容の薄いブログですが今後ともよろしくお願いします。

応援ポチッしときましたよ。
http://dream3492.blog.fc2.com/ こちたろう日記

1452:Re: キョウ頭様 by しのぶもじずり on 2013/07/11 at 23:39:42 (コメント編集)

良かったです。帝は、乙女を狂わせる男になってましたか?
こんなおっさんのどこが良いんだ。訳分からん。
とか言われたら、困るなあと思っていました。

> にしても、何故そうも巨大化にこだわる?w
ちょっとやりすぎましたかしらん。
つい、調子に乗りました。
どこか削ろうかな。

1453:Re: はじめまして by しのぶもじずり on 2013/07/11 at 23:44:04 (コメント編集)

こちたろう様 いらっしゃいませ。
ご丁寧なご挨拶、いたみいります。
こちらこそ どうぞよろしくお願いします。

1454: by lime on 2013/07/12 at 00:44:46 (コメント編集)

ちょうどいいから・・・って、邪気を祓ってしまう斎布が、すごい(笑)
今回はお見事でした。
それよりも、あの四郎五郎の様子が面白いです。
今頃、いろいろ斎布のこと気づいたのかな?
四郎五郎、慌てなさいw

1456:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2013/07/12 at 10:38:35 (コメント編集)

> ちょうどいいから・・・って、邪気を祓ってしまう斎布が、すごい(笑)
> 今回はお見事でした。
そう言って頂けると、ほっとします。
おとぼけ天然キャラの地味な活躍ということで、言い訳満載でお届けしました。

> 四郎五郎、慌てなさいw
慌ててるじゃないでしょうか。

1458:え~~! by 大海彩洋 on 2013/07/13 at 15:24:40 (コメント編集)

ここで終わってしまうの~?
終章までお預けなのですね~?
四郎五郎と斎布は・・・・・・??
帝ぉ、ここはあんたの力で・・・って、笑うだけ?
みんな、思うままを言って、やって、でも、恋だけはままならないなぁ。話の起源自体がそうですものね。
斎布が少しいいところを見せたので、次は四郎五郎か!

1460:Re: え~~! by しのぶもじずり on 2013/07/13 at 19:39:48 (コメント編集)

あと少しです。
陛下は発案しただけで、あとは両家にお任せです。
基本、アバウトな方なので、細かいところまでは突っ込まない(笑)

あとは野となれ山となれ。(おい!)

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