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天州晴神霊記 第九章――3


 帝は 面白くなさそうに、 口を尖らせた。
「大胆な秘儀だな。 余を亡きものにするために、 仕掛けたのか。
 はじめの話はどうなった。 阿古屋の恨みを 晴らしてくれるのではなかったのか。
 大神官のくせに嘘つきだ」
 飄々と応じて、 なじった。

「嘘ではありませんぞ。
 あれほどに恋焦がれていた娘を、 何故に拒まれた。
 迎え入れておられれば、 こんな騒動にはならなかった。
 黄泉の国で、 添い遂げられよ」

「んーと、
 失恋するたびに世をかく乱していては、 この世は 化け物ばかりになっちゃうと思う。
 迷惑である」
 意富美の額に 青筋が立った。
「迷惑の一言で片づけられるか!」
「ほう、 大神官は あの娘に懸想でもしていたのか」
「くっ、 馬鹿なっ」
「余の二つ上であったかな。
 神職にありながら、 なかなかにお盛んである。
 余はもう、 勘弁して欲しいと思うことしばしばだ。
 うむう、 うらやましいかも」

 帝の言葉に、 意富美は見る間に激高した。
「あれは、 娘だ。 わが生涯にただ一人と思った女人の娘だ。
 落ちぶれ果ててはいても 名家の姫だったから、
 親は 家を盛り立てることのできる婿を望んでいた。
 一介の神官でしかなかった私は 許されなかった。
 それでも、 親を裏切り、 私に寄り添おうとしてくれた人の 忘れ形見なのだ。
 汚らしい言葉で貶めるな!」

 意富美は ふと我に返り、
 言い過ぎたことに気付いたが、 帝を睨むことは止めなかった。
「忘れ形見……か、 生きておらぬのだな」
「……」
 阿古屋を産み落としてすぐに、 この世を去った人を、
 未だに忘れられずにいる悲しみが、 意富美の怒りを掻きたてた。
 帝は、 そんな事を気に掛ける素振りさえ見せない。

「ならば、 何故、 余に差し出そうとした」
 ただ 、静かに問いかける帝の声にも、 苦渋が混じり込んだ。

 長い間黙り込んだ意富美が 再び口を開いた時、
 その苦しげな声が 奥殿を震わせた。
「あれと、 あれの祖父母が、 宮中に上がることを望んだからです。
 父親として 何もできなかったから、
 せめて、 話だけでも通してやろうとしただけです。
 あなたは 私の話を、 半分しかお聞きにならない。
 そう、 いつも いつも、 半分しかお聞きにならない。
 だから、 お妃にはなさらないだろうと。
 女官にでもなれれば上等、 そう思ったのです。
 それなのに、 たまたま盗み聞かれた左大臣様までが動かれ、
 その上、 まさか、 こんなおっさんに、
 あれほどまでに恋焦がれようとは、 夢にも」

 どさくさ紛れに 失礼な事を口走ってしまう意富美だった。



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