天州晴神霊記 第八章――7
二五ノ目辻に光石が戻され、
浄石が浄められ、
しっかりとした結界が貼り直されたが、
魔の気配は 日に日に増え続け、 鬼道門は忙しくなるばかりだった。
結局、 自分は 出来損ないの霧呼姫でしかなかった。
化け物にとどめを刺したのは、
一夜姫の「大内裏一周そうめん流し計画」のおかげ というしかない。
危機を救ったのは 自分ではない。
ただでさえ落ち込んでいたというのに、
『術者が巨大化しなかったのが、 生彩に欠ける』
と一夜姫が言ったと聞いて、 どっと疲れを覚えた斎布だった。
しかし、 肩を落としている暇もなく、
斎布も 志信も 妖魔退治にこき使われた。
限界だった。
国元に 助っ人の術者を頼もうとして、 斎布は水鏡の術を使った。
千勢を呼び出す。
「大変なことになっているの。 応援をよこして欲しいのだけれど」
斎布は 状況を説明し、 最後に付け加えた。
「誰にも内緒だから という話もあるのよ。
大内裏に使いに来ていた見習い神官が、 大神殿の杜で、 首を括って死んだというの。
誰にも言うなと言いながら、 けっこう みんなが知っているみたい。
これから ますます忙しくなるかもしれないわ」
誰かが 漏らした。
「おやまあ、 大内裏に使いに来ていたということは、 あの神官かしら」
「知っているの?」
「立ち聞きしたようなので、 少々脅した。
もしかしたら、 そのせいか?」
「脅したって、 何をどのように」
「鬼道門家と奇御門家が交われば、 国が不幸になるとかなんとか、
言っちゃったような気がする。
それを漏らしたら呪われるぞ、
とかも言ったな」
「ええーっ、 では、 両家の縁談を聞いて、 悲観したのかしら」
「それなら、 気の毒な事をした」
斎布は、 ため息をついた。
どんどん ややこしいことになっている気がする。
帝の提案で持ち上がった縁談だが、
結局、 何の効果ももたらしていないどころか、 死人が出た。
せめて、 なんちゃって結婚の話が流れてくれれば とも思うが、
破談となれば、 それはそれで 騒ぎの元になりそうな雲行きだ。
都中がピリピリしている。
「そうだ、 一応伝えておこう。
斎布の相手は 二郎三郎になった。 急遽変更だ。
四朗五郎が どうやらダダをこね、 退魔の剣を持ちだして 家出中らしい。
大男の側近が、 くっ付いていったとか」
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