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天州晴神霊記 第八章――4


 上司に促されているのに、 青梅は ぼうっとして返事をしない。
「若人よ、 過ぎ去った事を悩むな。 とっとと前を向け」
 ふかーいため息が 返事になった。

「あの女は、 斎土府が邪魔くさかったから、 潰そうとした。
 老いぼれ神官も見習いも、 寝付きが良すぎると思っていたら、
 どうやら 毎晩 一服盛られていたらしい。
 唯一の官吏であるそなたも 排除しようとした。
 それだけのことじゃ。
 斎土府が無くなれば、 配置転換が望めるからの」
 一刀両断にする一夜姫を、
 青梅は 恨めしげな顔で見やり、 もう一度 ため息をついた。
 諦めて、 説明を始める。

「あーうー、 はい。
 先頃、 大神殿の杜で 首を括って発見された見習い神官があったのは 聞いているか」
「いいえ。 そんなことがあったとは、 少しも知りませんでした。
 見習いとはいえ、 まがりなりにも神官になった方が、 自殺するとはもったいない」
 大神殿の神官は 人々の憧れである。
 希望者がいくらでも居る。 狭き門なのだ。

「ははあ、 噂好きの都人が 口の葉にも載せないという事は、 さては 治安省が隠しましたね。
 ならば ますます好都合です。 事の真相を探ってください。
 神官が自殺するなど、 そもそもおかしいのですが、 他にも問題があります。
 部外者には極秘事項です。
 光石の盗難が絡んでいる」

 一通り話を聞いた写録は、 目を見開いた。
「『民の声・お届け箱』に、 二五ノ目辻の異変を報せた人間の正体は、
 不明のままなのでしょうか」
「ああ、 そうだね。
 その日の投書は一件だけ。
 持ってきたのは、 こざっぱりとした商人風の身なりをしているが、
 肩を斜めに揺らすだらしない歩き方が 堅気には見えない男だったとか。
 そこまでは 治安省が調べたが、 正体は不明です。
 投書の筆跡は しっかりしたもので、
 持ってきた男の人相風体とは あまりに違和感があるから、
 別人が書いたものだと推測している。
 死んだ神官の 書き置きの筆跡を調べたけれど、 それとも明らかに違っていたようです。
 もっとも、 盗んだ当人がそれを報せるのも、 筋がおかしいけど。
 今のところ、 さっぱりわかっていません」

 鯰髭を撫でまわしては 唸っていた写録だったが、
 大きく息を吐いて、 身を縮めた。
「何のために光石を盗んだのか。
 見習い神官の他に 関わっていた人間が居たのか。
 投書した人物は、 何故、 何処で、 光石の盗難を知ったのか。
 大変に心そそられる謎ではあるのですが、
 光石が絡んだ事件と言うことになりますと、
 やはり、 魔物も絡んでくる可能性がおおいにありそうです。
 ただの探偵である吾輩…… いや私めに 太刀打ちできるとも思えません。
 正直に申し上げますと、 魔物は大の苦手」

「うん、 私もだ。 気が合うね」
 そんなことで、 青梅と気があっても仕方がない。
 青梅が、 思い付いたように付け加える。
「ああ、 それそれ、 そこもおかしいんだ。
 死んだのは 見習い神官だから、 魔封じの法は まだ使えなかったらしいよ。
 使えたなら、 見習いは取れていただろう」

 魔封じが使えない人間が 灯篭から光石を外す事は、 通常なら考えられないが、
 魔に魅入られれば、 その限りではないはずだ。
 どちらだろう。
 どちらにしても、 危ない橋を渡ることになりそうだ。
 写録は 無謀な冒険も苦手だ。

「これ、 名探偵。 解決したら 賞金を出すぞ。 豪華な景品をつけてもよい。
 なにより、 不動の名声が手に入る。
 好機じゃぞ。
 魔物に強い用心棒を雇えば良いではないか。
 そうじゃ、 斎土府特製の 魔除け札をつかわそう。
 つべこべ言わずに、 きりきり働け」

「魔物に強い用心棒……、 あっ、 居りました」
 大神殿大祓の前日から、 ちゃっかり居候をしている二人組が居る。
 図体がでかいだけあって、 よく食べる。
 それも 遠慮なしに。

 この際、 食いぶち分を働かせても罰は当たるまい。
 賞金は魅力だ。
 不動の名声にも 色気が出る。
 豪華な景品は 何だろう。
 気付いた時には、 すっかり請け負っていた。

「お任せください」
 鯰髭を一撫でしていた。



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