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天州晴神霊記 第八章 催事の後――1


 翌日、 大納涼大会は強行された。

 はじめは 全壊の極光殿と半壊の朝堂に ため息をつきつつ、
 さすがに反対していた朝廷の面々も、
 最後は やけくそのドンチャン騒ぎになだれ込んで 盛り上がるしかなかった。


「陛下がご無事で 何よりでございました。
 いやはや、 大内裏は瓦礫の山です。
 化け物退治に利用した竹の樋を そのまま使ってのそうめん流しとは、
 成果を喜んでいるのか 傷をえぐっているのか 解りません。
 複雑な心境です」
 様子を見に来た鹿杖(かぜつえ)に、 帝は いつになく神妙に頷いた。
 いつもの職場を全壊にされてしまった為、 内裏の御座所 紫水殿である。

 鹿杖は 正面に対座して、 やけにおとなしい帝を見やった。
「可哀そうなことをした」
 答えた声にも張りがない。
「それでも、 お傍に置く訳にはいかなかったのですね」

「うむ、 近くに置けば、 役に立とうとして 熱心に助言をしただろう。
 聞き流す自信も、 流されない自信も、 捕らわれない自信もなかった。
 …………余は、 帝だ」
「怪しげな蝶モドキが、 夜な夜な 珠由良殿を取り巻いていたのも、
 珠由良の前を 取り殺そうとしていたのでございましょう。
 もはや恋というより 妄執。 賢明なご判断でございました」

 沈黙が落ちた。
 後片付けに大わらわの声と物音が、 大内裏から かすかに聞こえてくる。

 重い静寂を振り払うように 鹿杖が 声を大きくした。
「東宮様もご無事とか。
 破魔の剣を振るう事も無く収まって、 ほっといたしました」
「それなんだがな」
 帝は 困った顔を崩さない。
「破魔の剣は 内裏の宝物庫に入れてあるだろう。
 内裏の門を厳重に閉め切ってしまったので、 取りに来れなかったらしい。
 これでは いざという時に役に立たん。 東宮殿に移そう」

 鹿杖は少し考えて、 承知した。
「かしこまりました。 さっそくそのように。
 それにしても、 珠由良の前は 無理やりすぎませんか」
 帝の顔色を窺うように、 さらに話題を変える。

「そうかなあ。 可愛いだろ。
 以前から相談されていたので、 いい機会だと思ったのだ」
「確かに、 九尾の狐を操る娘を 市井(しせい)に置くわけにも行きませんが……」
「陰陽博士の縁者らしい。
 凄かったなあ、 九尾の狐」
 遠い目をする帝であった。

「それにしても…… その……
 東宮様に目合わせる とかですねえ……」
「断られた。 あんな豆狸は嫌だそうだ。
 余の息子だというのに、 女が解ってない」
「わっはっ……、 いや失礼」
 大笑いしそうになって、 鹿杖は慌てて口を押さえた。

 豆狸とは言いえて妙だ。
 丸々した体といい、
 吃驚したような目と言い、
 言われてしまえば 他のものには見えない。

「まだ九歳だから豆狸だけれど、
 五十過ぎたら 好い女になるぞ。 楽しみだ」
「どんだけ長生きする気ですか」

 今上の帝、 年上好みの四十七歳であった。
 いつまでも 落ち込んではいられない。



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