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天州晴神霊記 第七章――15


 斎布が居れば、 東雲町で魘妖(えんよう)を退治した時の手が使える。
 気になるのは、 切った尻尾が 短くなったまま形を変えないことだ。
 こいつは 生まれたてではない。
 しっかりとした形を得るまでの時を経ている。
 それだけ 力をつけているということだ。
 油断は禁物だ。

 バリバリ  ズシン

 考えあぐねている隙に、 化け物が 瓦礫の山から一歩踏み出した。
「内裏を、 帝を護れ!」
 怒号が入り乱れ、 無駄と知りつつ 兵士たちは女をめがけて矢を射続ける。

「やめろー」
 その時、 志信は夜空を駆けてくる白い馬を見つけ、 力いっぱいに叫んだ。

 必死の声に、 一瞬 矢が途切れた時、
 霧の馬が 化け物の頭部に突っ込んできた。
 驚異の素早さで 振り上げられる腕をかいくぐり、 紐が繰り出される。
 化け物の角が 片方、 途中から消えた。
 どよめきが上がった。

 真っ直ぐにしか飛べない矢とは違い、
 斎布を載せた玉龍は 縦横無尽に隙を抜き、 死角を衝いて 化け物を削り取っていくが、
 いかんせん 相手が大きすぎた。
 たいした打撃を与えた様子もないうちに、
 怒り狂った化け物が 玉龍の動きを読み、 反撃し始める。

 鋭い牙から危うく逃れ、 突き出された拳を避けた途端に、
 思いもかけない方向から、 先っぽがほんの少し欠けた尻尾が襲ってきた。
 やられる、 と衝撃に備えて身を縮めたが、 尻尾は他に逸れた。
 斎布に注意が集中している隙を狙って、
 化け物の足もとまでたどり着いた志信が、 足の甲に切りつけたのだ。
「足、 デカッ」

 文句を言い終わる間もなく 蹴りあげられて、 志信は宙を飛んだ。
 玉龍が身を翻し、 地に叩きつけられる寸前に 衣服を咥えて受け止めた。
 地面に降り立った玉龍は、 ポイと志信を放り出す。

 転がりながらも 志信は嬉しそうに叫んだ。
「あれやろうぜ。 東雲町でやったやつ」
 斎布は頷き、 玉龍の首から 輪になった霧呼紐を外した。
 玉龍は 鬣(たてがみ)を一振りすると、 消えてしまった。

「今度 もう少し長い紐を作ってもらおうかな。
 行くわよ、 志信。 必殺東雲崩し!」
「名前 付いてんだ」
「今、 付けた」

 斎布は 霧を呼んだ。
 大内裏に 白い霧が流れる。
 白く霞み始めた一時の静寂の中に、 女の声が降り注いだ。

「邪魔をするな。
 我が背の君の許(もと)に行きたいだけなのに、 何故行けない。
 こんなはずではなかった。
 恋しい方のお傍近くに仕え、 命をかけて お役に立ちたいだけなのに、
 何故、 何故、 何もかもが邪魔をする。
 ああ、 愛(いと)しい背の君、 今まいります。
 邪魔者たちを皆殺しにして、 あなたの許にまいります」

 女の声に応えるように 化け物が咆哮する。
 大内裏の建物が振動し、 いくつかが崩れる音がした。
 霧が 少しずつ濃さを増してゆく。

「ええい、 霧までが邪魔をする気か」
 極光殿の瓦礫から、 青白い蝶が 湧きあがるように出現して、
 化け物と女を取り囲んでいった。


 離れた場所に、
 夜警の為に衛士が焚いた 篝火(かがりび)があった。
 そこに 一匹の蝶が近づく。
 呆然と巨大な化け物に見入っていた衛士は 気付かない。
 たとえ気がついても、 明りに吸い寄せられた 愚かな夏の虫にしか見えなかったろう。

 しかし、 単なる飛んで火に入る夏の虫ではなかった。
 炎に身を投じた蝶は その姿を炎に変えて、 火の中から飛びたった。
 一直線に 化け物に突っ込んでゆく。
 まるで 火矢のように。

 炎の蝶が、 化け物を取り囲んでいた蝶たちに 次々と燃え移り、
 たちまち 炎の壁に変えていった。
「あっ、 まずい」
 霧が薄れていく。
 思い出したように 矢が射掛けられるが、
 効果もなく、 炎の鎧(よろい)を纏った化け物は 動き出した。
 朝堂(ちょうどう)が 破壊される。



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