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天州晴神霊記 第七章――14

 たっぷり神霊水を振りかけた剣を 縦横無尽に振り回し、
 行く手を邪魔する蝶モドキを蹴散らしながら、
 志信は やっとのことで 極光殿の扉にたどり着いた。

 開けば、 広がる暗闇のなかほどに、 ぽつんと一つ、
 手燭の弱々しい明かりが見えた。
 ごく狭い範囲だけを かろうじて照らす光の中に 浮かぶ人影が、 ゆっくりと振り向く。

「失せろ!  邪魔立てするな」
 見る間に目がつり上がり、 吐き出された声と共に 唇が大きく裂け、
 覚えのある顔が 見知らぬ夜叉へと変貌を遂げていった。
 返す言葉の代わりに、 志信は身構えた。
 早々に 理解することを諦める。
 こんなもの、 考えても解るわけない。

 動けなくなった志信を尻目に、
 細い指先が 床に置かれた黒い匣(はこ)に伸びて ふたを開けた。
 ほんのりとした光が漏れ出たのは 一瞬のこと。
 夜の闇よりも暗く 禍々しいものが身を起こす。
 それは 見る間に膨(ふく)れ上がり、
 はるかに高い 極光殿の天井を突き破った。

 建物の破片が ばらばらと降り注ぐのを避けて、 外に避難した志信の目に、
 屋根を突き抜けて 頭を出した化け物が見えた。

「こらっ、 冗談じゃないぞ。 ちっとは周りの迷惑も考えろ!」
 志信の説教を完全に無視して、 化け物は、 邪魔だとばかりに腕を振り回し、
 さらに 破壊を続けた。
 極光殿は 見るも無残な瓦礫へと化してゆく。

 頭は 巨大な蛇に似ていたが、 両脇に角のような突起が生えている。
 徹夜明けの充血よりも赤い眼をぎらつかせ、
 口からは 鋭い牙が並んでいるのが見える。
 恨みを訴える唸り声とも、
 押し殺し続けた悲鳴にも聞こえる音が、
 夜気を震撼させて 低く響いてくる。
 太い胴体の盛り上がった肩から伸びる腕で、 瞬く間に 極光殿を廃墟に変えていった。


 その頃には、 諸門を守る衛士(えじ)たちも気づいて騒ぎ出し、
 内裏を護る近衛兵らも 武器を携え 駆けつけてきたが、
 あまりの大きさに 近づくこともできず、
 剣や槍を使うどころか、 飛んでくる瓦礫を避けるのが精いっぱいの有様だった。
 弓矢を持つ者たちが出て、 一斉に打ち放つが、
 矢は傷さえつける事が叶わず、 化け物の体に飲み込まれてしまった。

「妖魔だ。 武器が利かぬ。 神官殿を呼んで来い」
「駄目です。 熟睡していて、 この騒ぎにも目を覚ましません」
「何だと。 年寄りなのに おかしいだろう。
 年寄りは 眠りが浅いと相場が決まっている。 死んでるんじゃないのか」
「大神殿に使いを出せ」
 怒号が飛び交う。

「おい、 あれは…… 人が乗っているのか? 
 ほら、 首の横。 女のようだ」
 何人かが気づいて 指をさす。
 巨大な化け物の 盛り上がった肩から首のあたりにしがみついて、
 裾を翻し、 髪を振り乱している。
 顔はよく見えないが、 華奢な体つきから 女人であると判断出来た。

「あの女が 操っているのではないのか。 女を射(う)て」
 腕自慢の放つ何本かの矢が 女めがけて飛んだが、
 化け物が なんなく腕で振り払ったかと思うと 不意に体を捻った。

 届かないと たかをくくっていたのだろう。
 不用意に近づいていた兵士をめがけて 太い尻尾が襲ってきた。
 志信は とっさに兵士を突き飛ばしざま、 剣でなぎ払ったが、
 浄化できたのは 文字通り尻尾の先っちょだけだ。
 ほんの少しだけ 短くなったにすぎない。

「これだけでかいと 細切れにするにも手間がかかりそうだ。
 まいったなあ。 霧呼様 来てくんないかなあ」



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1390: by lime on 2013/06/16 at 01:05:05 (コメント編集)

次々に派手で厄介なものが出てきましたね。
志信たちは大変そうだけど、映像的にとても楽しいです^^(脳内映像)
テンポが早い分、迫力がありますね。

そろそろ、霧呼姫の出番でしょうか。
いや、まだかな?

1391:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2013/06/16 at 10:44:12 (コメント編集)

映像化に成功していますでしょうか。嬉しいです。
一夜姫の要望に応えて、妖魔が巨大化しております。
特殊効果でお送りしています。

霧呼姫、出番ですよ~。

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