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天州晴神霊記 第七章――11


「あの蛾、 見かけによらず すばしっこいぞ」
 短い夏の夜とはいえ、 まだ宵の口である。
 輪と志信は ひと気の無い斎土府に居た。

「だから、 『良し』と云うまで 勝手に動くなって言ってるでしょ。
 『待て』もできないんじゃ犬以下じゃないの。
 まったくお調子者が」
「じゃあどうするんだよ。 虫が苦手のくせに」
 真夜中を待つ間を持て余し、 恒例の罵り合いで時間を潰す二人だった。

「こっちだってちゃんと考えてあるのよ」
 輪は 小さく千切った紙片を取り出し、
 掌に載せて 持参の竹筒から神霊水を一滴垂らした。
 ふっと息をかけると 紙片がすいーっと飛び立った。
「どう。 トンボなら 何とか我慢できるんだから。 これにあとをつけさせる」

「ムギワラトンボじゃん。 地味」
「汚い虫は嫌いだけど、 派手な虫は大っ嫌いなの。
 虫のくせに生意気よ」
「せめて シオカラトンボくらいにすればいいのに」
「嫌よ。 あんたと同じオスじゃない」
 シオカラトンボとムギワラトンボは 同じ種類の雄と雌である。
 自然の摂理に従って、 雌のほうが地味だ。
 唯一、 摂理に造反を企てているのが人類の雌だ といういう説もある。


「おお、 今宵も元気に戦っておるな」
 その手の造反には興味の無さそうな 女のおっさん、 一夜姫の登場である。
 住まいを用意されたのに、
 無駄に部屋が余っているからという理由で 斎土府に住み着いてしまった横着者だ。
 内侍と幾人かの下男下女が 巻き込まれて、 一緒に住む羽目になっていた。

「今宵は お姿がお見えにならないので、
 早々にお休みになられたのかと思っておりました」
 輪にだって 敬語は使える。

「うむ、 さっき起きたところじゃ。
 わらわも見物しようと思っての。 午後から寝ておった。
 内侍を見なかったか」
「見てないぞ。 鬼の居ぬ間に、 命のサンタク問題じゃないのか」
 志信は 敬語の問題ではなかった。

「う~む、 三択問題。 選んでおるのか。
 まあ良い。 そなたらが居れば問題ない。 行くぞ」
 すたすたと 建物を出て歩き出した。

 大内裏の中とはいえ、 夜に一夜姫を独り歩きさせる訳にもいかず、
 二人は付いていく羽目になった。

「何をする気なんだ」
「無論、 妖しきものを成敗するのじゃ。
 明日は大納涼大会じゃからの。
 今宵のうちに 邪魔物は片づけておきたいものよ」



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コメント
1382: by lime on 2013/06/13 at 09:00:30 (コメント編集)

え!ムギワラトンボは、シオカラトンボの雌だったのですか!
今初めて知りました。田舎育ちだったのに。
でも、見ようによってはあの虎縞のほうが派手とも取れるかもしれませんね。いや、好みの問題かな。

人間はメスの方が、あ、女のほうが綺麗だといういう感覚の方が強いですよね。
でも、本当は男の方が造形的に綺麗なんだったりして・・・と思う私は変なのかな。
(綺麗なカラダをキープできない男が悪いのだ。うん)

1383:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2013/06/13 at 10:44:18 (コメント編集)

人類の場合は個体差が大きいですから、分かり難いです。
その上、女はメイクアップしたり、ファッションにこだわったりしますから(私を除く)
余計に分かりにくくなっているようです。
でも「赤瑪瑙奇譚」の序にも書いたように、自然界ではオスのほうが、とかく美しいです。
男は見た目よ~。

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