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天州晴神霊記 第七章――10


 少し離れた場所に立っていた閼伽丸は、 苛立っていた。

 魔寄せの香につられて 湧いてくる妖魔を、 片っぱしから元気に退治している四朗五郎の活躍を眺め、
 成すすべの無い己自身に 苛立っていた。
 火照りの剣を強く握りしめる。

 《守れ》の一言と共に 二郎三郎から授けられた時、
 誇らしい気持ちで 胸がいっぱいになったことを思い出すと、 今の自分が情けなかった。
 守れていない。
 握りしめた剣を引き抜き、
 渾身の気合を込めて ノコノコやって来た妖魔を斬り払う。
 真っ二つになって転がった。

 やったのかと期待したが、
 それぞれが グネグネと形を変え、 二匹に増えただけだった。
 役に立たないどころか 敵を増やしてしまった。
 悔しい。

 四朗五郎はというと、 疲れも見せずに剣を振るっている。
 そもそも、 暴れまくる 傍若無人で怖いもの知らずの男を、
 どう守ればいいかが分からない。
 守る必要なんか 見当たらない。
 せめて 可愛らしい巫女と童子の二人組なら、 守り甲斐があるというものだが……。

 『たいそうな退魔の剣をあんたにくれた人って 馬鹿なのか』
 志信の言葉が 胸に突き刺さる。
 そんなはずは断じて無い。
 聡明で思慮深く、 無茶なことはおっしゃらない。
 それなら 何故《守れ》と……。
 そうだ。 誰をとも、 何をとも、 おっしゃらなかった。
 ただ一言 《守れ》と。

 そうか、 守る必要が無いなら 守らなくても良いんだ。
 守りたいもの、 守らなくてはいけないものを守ればいい。
 四朗五郎様と一緒に。
 それだけのことだったのだ。

 見回せば、
 水遊びのように楽しげに、 水をかけては妖魔を消している男と少女は、
 守らなくても大丈夫そうだ。
 水面に 空からの眺めを映し出せる男だ。
 あれも術の一つなのだろう。

 頭から水をかぶった濡れ鼠で
 「これが本当の 水も滴る良い男」 と気取っている 変わった官吏は、
 あまり かかわり合いたくない。
 ネバネバ医者もご免こうむりたい。
 さて、 どうする。



 神霊水をかぶった青梅は 無敵になった。
 妖魔が近付かないどころか逃げていく。
 快感を感じていた。
 すり寄ってくる管虫を 軽く足蹴にし、
 目辻の中心を目指して、 トンと一つ跳んで 勢いをつけ 走り出す。
 妖魔のマタタビと化した匂い袋めがけて 華麗な足さばきを繰り出せば、
 匂い袋は見事に飛んで、 浄め石に張り付いた。
 青春の汗と 神霊水が 飛び散る。

 余計な事をした と後悔することになろうとは、
 この時点では 想像もしていなかった。



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