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天州晴神霊記 第七章――8


 雅彦君の目の色が変わった。
 声も慌てふためいて 悲鳴に近い。
 斎布と、 手持無沙汰で辻に立っていた閼伽丸と、
 妖魔を一匹片づけたばかりの四朗五郎が 駆け付けた。

「どうしたの」
「内裏近くの光石が、 真緑色に変わっています。
 こんなに濃い色は初めて見ました。
 内裏で 大変なことが起こっています。 霧呼様行ってください」

「これは、 星都の上空なのか。 どういう仕掛けだ」
 四朗五郎と閼伽丸が、 目をまん丸に見開いて 水鏡に驚愕している。
「雅彦君ったら、 本当に名人だったのね。 すごいわ」
「のんきなことを言っている場合ではありません。
 この色では 一刻を争います。
 すぐに、 今すぐに内裏に飛んでください」

 内裏には志信が居る。
 輪も居る。
 老いぼれと見習いとはいえ、 神官だって二人いる。
 それなのに 鮮やかな緑色は濃くなっていくばかりだ。
 とんでもないことになっているに違いない。

「今すぐ助けに行けるのは、 伝説の霧呼姫だけです」
 ほっこり穏やかな男の何処に これだけの気迫が潜んでいたものやら、
 その言葉には 逆らい難い力が有った。

 過去二人の霧呼姫の能力が抜きんでていたのは確かだ。
 しかし それだけで伝説になった訳ではない。
 本当の伝説は他にある。
 天州晴が未曽有の危機に見舞われた時、 それを救ったのが二人の霧呼姫なのだ。
 天州晴に危機が迫る時、 霧呼姫は現れると云われている。
 内裏には帝が、 東宮をはじめとする皇子たちが居る。
 大内裏には国の中枢がある。
 そこに何かあれば 天州晴がただでは済まない。

 何より、 輪と志信が心配だ。
 何とかしたいのは山々だが、 伝説に程遠い自分に出来るだろうか と斎布は躊躇した。
 まだまだ、人を助けるどころか助けられてばかりだ。
「霧呼様なら、 出来るはずです。 自信を持って下さい」
 雅彦君が、 再度促す。

『何かを成し遂げようとするなら、 まず自分を信じること。
 失敗しても、 転んでも、 信じ続けること』

 七歳の祝いの席で、 訳も分からないままに、 行事だからと霧呼紐を振らされた。
 自分でも信じがたいことに、 霧が流れ出た時、
 日頃、 すっかり影の薄い父が、 言ってくれた祝いの言葉。
 幼い斎布には意味不明で、 すっかり忘れていたけれど…………。

 今、 思い出した。

「よく分からないが、 こっちは任せろ」
 四朗五郎の漆黒の瞳が勇気をくれる。
 斎布は 腹をくくった。

 腐っても鯛。
 出来損ないでも霧呼姫。
 これは自分の役目なのだ。 すぐに、 今すぐに。

 斎布は 霧呼紐の先を輪にして結び、
 牧童が暴れ馬を捕まえるときのように、 頭上で回した。
 くるくると回る輪から、 霧が雲のように勢いよく立ち昇る。
「玉龍!」

 斎布の口から出たのは、 歴代の霧呼姫に仕える馬の名前だ。
 幼い頃、 遊び半分で霧呼紐を振りまわして、 霧を大量に出しすぎ、 遭難しそうになった時、
 一度だけ現れたことがある馬の名を 力いっぱいに叫ぶ。

 呼びかけに応えるように、 濃い霧の中から 勢いよく飛び出したのは、
 星の瞬きに似た輝きを放つ 天駆ける霧の馬。

 すかさず 紐の輪を玉龍の首に掛け、 斎布はその背に飛び乗った。
 時を惜しんで たちまち夜空に駆け昇る。

 三日月の鎌を掠めるかのように 淡い霧の尾を引いて、
 玉龍は星都の北、 内裏を目指した。



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