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天州晴神霊記 第六章――7


「ええーっ、 さっきの人が 雅彦名人なんですか。
 本物を見ちゃった。 感激! 
 輪様の助手をしているなんて、 さすがです」
 あずきは廊下を振り返ったが、 姿はもう見えない。

「あら、 名人だったの。 知らなかったわ」
「水鏡の術では水輪繋、 いえ天州晴一の名人ですって。
 高画質の鮮明な映像と、
 高音から重低音まで幅の広い豊かな音声を駆使した 超高性能の術だって、
 母ちゃんが言ってました」
 それはすごい と目を丸くしたものの、
 それが 妖魔退治にどう役に立つのかしら と再び首をひねる斎布だった。
 …… 思いつかなかった。


        *     *     *


 珠由良殿が見える場所に陣取って、 志信は夜中になるのを一人で待っていた。
 一夜姫と輪は 内侍を下がらせ、
 斎土府の一室で 四方山話(よもやまばなし)にふけっているはずだ。
 どちらも 他人の話を聞かないところがあるが、
 その二人だと ちゃんと会話が成立するから不思議だ。
「出そうな時刻になったら行くから、 志信は先に行って見張っていなさい」
 と体よく追い出された。

 呼び出されて害虫駆除を命じられた後、 強制的に仮眠をさせられてはいたが、
 見張るといっても 待っているだけで することがない。
 退屈で 眠ってしまいそうになる目を擦り、 あくびをしていた。
 そろそろ真夜中に近い。
 ひっそりと静まり返った内裏の庭に、
 腹の虫が鳴く声が 高らかに響いた。
 「腹が減っては、 いくさが大変」
 と都合のよい言葉を引っ張り出し、 志信は 夜食に用意した握り飯にかぶりついた。

 そういう時に限って 事態は動く。
 そういうものである。

 庭を包み込んだ闇の奥から、 ぼんやりと光る 小さなものが一つ現れた。
 青白い羽根に 薄い光をまといつかせ、 ゆっくりと飛んでくる優美な姿は、
 蛾というより、 なるほど蝶と呼ぶのが相応しく思われた。

 食べかけの握り飯を名残惜しげに諦め、 一歩踏み出そうとした時、
 後ろから 不意に肩をつかまれた。
 振り向けば、 約束通りに輪が居る。

「慌てちゃ駄目よ」
 気がつけば、 一つ、 また一つと 闇から新手が湧いてきていた。
「良いものじゃなさそうだけど、 妖魔とはなんだか感じが違う。
 あれはなんだろ」
「誰かが操っているのよ」

 妖魔は、 ある意味 自然発生的なものである。
 大自然の中で出来た気の濁りや 生き物の不安、 人間の恨みや悪意が 邪気となって流れ出し、
 集まって 濃くなったところから 何かのきっかけで妖魔に変じる。

「あれは 人間が作って使っている。
 使い魔のようなものかしらね。 あ~ヤダヤダ。
 わざわざ虫に似せるなんて、 趣味が悪いわ」



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