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天州晴神霊記 第六章――2

「お嬢ちゃん、 一人かい」

 近くに人がいない時を見計らって 声をかけた。
 女の子は 辺りを見回していた視線を止めて、 ゆっくりと斑を見上げ、
 うん と素直に頷いた。

「行くところはあるのか」
 せいぜい優しいお兄さんを取り繕って 続ければ、
 これにも素直に頷く。
「迷ったのなら 送ってやろうか」
 女の子は、 円らな目をゆっくり一つ瞬きすると、 可愛らしい声で答えた。

「…… だいじょうぶ
 …… あのね、 北は どっちかなあ?」
 なにしろ 都大路は五芒星である。
 慣れないうちは 大人でも方角を見失うことが珍しくない。
 答えようとした斑の目に、 警邏士が二人 巡回してくるのが見えた。
 黙って指をさす。
「あっちだ。 気を付けて行きな」
「ありがとう」

 女の子は 丁寧に礼を言うと、 とことこと斑が指した方角に歩いて行った。
 一瞬、 巡回中の警邏士が 奇妙な組み合わせの二人に目を留めたが、
 何事もなく分かれて行くのを見て、 そのまま通り過ぎて行く。

 斑が指したのは 南。
 しかも 三条大路は南南西に向かっている。
 迷子の一丁上がりだ。
 あとは じっくり途方に暮れるのを待って 優しく声をかければ、
 おとなしく どこにでも付いてくるだろう。
 うまい具合に日暮れも近い。
 妖魔に食われるぞ と脅すこともできる。
 どちらかというと、 そっちのほうが得意だ。
 あの子なら 後五、六年もすれば、 評判の美少女に育つだろう。
 女を見る目には自信がある。
 上手く売り込めば、 相当の金になるはずだ。

 ここのところ懐は温かいが、 金ならいくらあっても 邪魔にはならない。
 おとなしく肩に止まったミミズクも、 あれほど人に馴れているなら バラ売りも可能だ。
 カモがネギを背負っている。
 否、 美少女がミミズクを背負っていた。

 かなり離れた頃合いを見計らって、 斑は 鼻歌交じりで のんびりと追った。
 子供の足だ。 追いつこうと思えば あっという間だろう。
 間もなく 女の子は角を右に曲がった。

 人生の裏街道を、 蟹歩きで進んできた斑だ。
 いつもと違って 堅気のような身なりをしているとはいえ、 表通りは落ち着かない。
 大路を外れてくれたのは、 いい塩梅だ。

 北と南を反対にすれば、 主に下級武官やら下級官吏やらが住む 雑多な町だが、
 実際に女の子と斑がいるのは、 屋敷町だ。
 特に大きな屋敷が多く、 他の町と比べると 人通りが極端に少ない。
 おあつらえむきだと斑は考えた。

 少しだけ急いで 角を曲がると、
 前方の角をさらに曲がっていく姿が ちらりと目に入った。
 その先は、 ひときわ大きな屋敷の塀が続く。
 脇道に逸れる心配がない。

 斑は、 先回りしようと 反対側に回りこんだ。
 女の子の正面に出るつもりだ。



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