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天州晴神霊記 第五章――12


「いつまでそうしてるんだ。 いいかげんに 霧呼様を下ろせ」
 志信に注意され、 四郎五郎は 残念そうに斎布を下ろした。

 斎布は歩き出そうとしたのだが、 どうも調子がおかしい。
 心臓は 勝手にドキドキするし、
 体が自分のものではないみたいに ぎくしゃくする。

「霧呼様、 右手と右足が一緒に動いているぞ。
 足がもつれているんじゃないか。
 …… あっ、 転んだ……」
「だ、 だ、 だ、 大丈夫だから」
 ちっとも大丈夫そうには見えない。
 よよと崩折れたのではなく、 可愛らしくコテンと倒れたのでもない。
 ベチャッ――  まさに いたずらっ子に踏みつぶされた蛙みたいに
 ベチャッと転んだのだ。

「怪我はないか。 おぶってやろう」
 四郎五郎が手を差し伸べたのを 邪険に払う。
 あられもなく転んだところを見られたくなかった。
 なんだか無性に腹が立ってきた。
 一体この男は何なのだ。 この男と居ると調子が狂う。
 ジタバタとなおも足をもつれさせながら、 ともかくも 木立の陰に隠れた。


 数人の神官が 恐る恐る中央の依代に近づいた。
 一人が香炉をどかせ、 他が木組みに火を放つ。
 見る見るうちに 妖魔を吸い取った丸太は 炎の輪に包まれてゆく。
 ギシギシとした呻きともつかぬ不気味な音が 炎の底から漏れたが、
 拝殿の歓声に かき消された。

 依頼したのは 都の有力者たちだと聞いている。
 今夜の顛末(てんまつ)は、 感動とともに語られ、 人々に安心をもたらすだろう。
 そうなれば 棚から牡丹餅ではあるが、 作戦が一歩も二歩も進む。
 つまらない縁談を無しにする為には 有利に働いてくれるだろう。
 少しはホッとして良いはずなのに、
 斎布は 全然落ち着いた気分になれなかった。
 何故だろう。

「気にしなくてもいいぞ。
 転び方は下手でも 霧呼殿は…… か…… か…… 可愛い」
 四郎五郎に余計な事を言われて、 さらに落ち着きがなくなった。
「うるさいわねえ。 そんなことを気にしているんじゃないわよ。
 星都は これで落ち着くのかしらと考えていたのよ」
 少しばかり嘘だ。
 あんなにみっともない転び方をしたのは、 よちよち歩きの頃以来だ。
 頭の中に 羞恥と共に記憶が繰り返されて、 知らず赤面する。

「霧呼様は 細かいことなんか気にしないぞ。
 ずうっと考えていたっぽい大事な秘密の大作戦があるのだからな」
 志信の言葉に 四郎五郎が反応した。
「大作戦?」
 好奇心を丸出しにして問い返す。
「ひっくり返す……」
「あわわわわ……」



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