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天州晴神霊記 第五章――11


「なるほど、 あれは破魔矢ですな」
 閼伽丸が 息を飲んだ。

 破魔矢が妖魔を突き抜けて、 夜空の中天に消えた。
 突き抜けた所から形が崩れだし、 闇となって 流れ出す。
 やがて、 鏃(やじり)を下にして 再び姿を現した破魔矢は、
 広場中央の丸太に突き刺さって 止まった。

 すると 流れ出しうねり悶えていた闇が、 渦を巻いて引き寄せられ、
 依代(よりしろ)となった丸太に吸い込まれていった。
 そこかしこに散らばっていた半端な邪気も 残らず後を追う。
 そればかりか、 大路から新たに邪気を引き寄せては、 飲みこんでいった。

「おお、 大神官、 めちゃめちゃかっこいいぞ」
 志信までが 拳(こぶし)を握って 興奮している。
 依頼主の見物人は さぞや満足と感動を味わっているだろう。
 どよめきが伝わってくる。

 志信は 隣に立つ大男に ちらりと目をやった。
「それに引き換え 『火照(ほでり)の剣』って言ったっけ、
 たいそうな退魔の剣をあんたにくれた人って 馬鹿なのか」

 いつも温厚な大男が みるみる気色ばむ。
「いきなり失礼な言い草だ。
 あの方は聡明な方です。 君に言われたくありませんね」
 閼伽丸の めったに見られない迫力ある顔で睨まれても、 志信はどこ吹く風で言いつのる。
「だって、 あの人の兄さんなのだろ。 同じようなもんじゃないのか」
 志信は、 ちらりと横目で四朗五郎を見た。
 斎布を抱えたまま、
 目の前で起こった炎の饗宴に見とれたのか、 固まったみたいに突っ立っている。

「うっ、 全然違います。 無茶な事はおっしゃいません。 とても思慮深い方です。
 行き当たりばったりで無計画な弟君と 一緒にしないでください」
 どこまでも自信たっぷりに 言い切った。

「だったら、 あんた あの剣、 使えるんじゃないのか。
 使えないものをくれても しょうがないじゃん」
「うるさい!  うろうろして見つかっては面倒です。 隠れましょう」
 一層機嫌が悪くなった閼伽丸の声に、 斎布は我に帰った。
「…… 降ろして……」

 助けられたのだから お礼を言うべきなのだろうが、
 その前に 一言文句を言っておきたい。
 恥ずかしすぎる。

 息を吸って 顔を振り向けた。
「わっ」
 びっくりするほど近くに 漆黒の瞳があった。
 びっくりした。

 同じ黒なのに、 闇の色とは正反対の 鮮やかな命の輝き。
 斎布は声も息も出せずに、 見入ってしまった。
 四郎五郎が嬉しそうに、 にかっと笑った。
 あまりに無防備な笑顔に、 つい、 文句を言いそびれてしまう。



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