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天州晴神霊記 第五章――9


 神官たちの何人かが、 堪らず 二条大路から続く炎の道を消しに 走った。
 が、 なかなか消えず、 邪気は容赦なく 勢いを増してなだれ込んでくる。
 大神殿にとっても 予想以上のことが起こっていると分かる。

 闇の塊が身悶えるように揺れ、 暗さを増しながら形を成した。
「で、 でかい」
 身の丈は ゆうに人間の三倍以上、
 民家なら 二階家の軒先に届きそうなほどに立ち上がった。
 荒唐無稽な絵草紙に描かれた魔物の絵に なぜか似ている。
「うわあ、 本格的」
 志信が 一々感想を口にする。

 むせかえるような熱気の中、 妖魔は 不機嫌も露わに 己を取り巻くかがり火をにらみ、
 地を揺るがすような咆哮を上げた。
 振動で 火の粉が飛び散り、 舞い上がる。
 拝殿から 野太い悲鳴が上がった。
 巨大妖魔は 火の輪の中で向きを変え、 拝殿に近い方に ゆっくりと移動していく。
 斎布と志信が居るのとは 反対方向だ。

 炎を透かして 行方を追おうと目を凝らせたその時、
 一番近い場所にあったかがり火が 勢いよくなぎ払われた。
 燃え続ける木片を ぷすぷすとまとい付かせたまま、 もう一匹が身を起こした。
 大きさは人間ほどだが、 姿かたちは 大きいのと似ている。
 近くに居た神官を うるさそうに払い飛ばした。
 装束に火が移り、 神官は あわてて逃げ惑う。

 二匹目の妖魔は火が途切れた所からついに輪の外へ踏み出た。
「こいつを野放しにしたら まずいんじゃないか」
 志信は、 抜いた剣に 竹筒の水を掛けて身構えた。
 四条大路で懲りてから、 竹筒は忘れず持ち歩くようになった。
 斎布も霧呼紐を外す。

 大神殿には巫女が居ない。
 目立たないようにと その場で試しに紐を振ってみたが、
 湧き出るそばから熱気に吸い込まれて 霧が留まることなく 消えてゆく。
 その上、 木立が邪魔をして 大きく振ることさえできない。
 だが、 ためらっている暇はなかった。
 気づいて 輪の中に押し戻そうとした二人の神官が、 またもや 弾き飛ばされて転がった。
 妖魔は 町中へ出ようとしている。
 弾き飛ばされた神官は 二人とも気絶したのか動かない。

 巨大妖魔が またもや恐ろしい唸りを上げる。
 他の神官の注意は そちらにかかりきりだ。
 今、 光石が一つ外されている。
 星都の五芒星は途切れて、 魔封じの役目を果たしていない。
 取り逃がしては 面倒なことになるのが目に見えていた。

 斎布と志信は、 意を決して 妖魔の行く手に立ち塞がろうと動いた。
 見た目に反して、 奴は素早かった。
 一直線に突っ込んできたそれを、 志信が駆け抜けざまに斬り払った。
 妖魔は 真っ二つになって転がった。

 間に合った。
 そう思った。

 しかし、 斬ったはずの二つの塊は 不気味に動きを止めようとしない。
 ぐにゅぐにゅと蠢(うごめ)きながら形を変え、
 闇の色を薄くして 魔物の姿に戻ってゆく。

「え?  なんでだ」
 驚いて 志信が手にした剣を見ると、 すっかり乾いている。
 妖魔に蓄えられていた熱気のせいだろう。
 ただの一閃で蒸発していた。
 志信は 慌てて竹筒の栓を抜こうとした。

 ボキッ。

「しまった!  力を入れすぎて 折っちゃった」
 折れた栓が口を塞いで、 逆さまに振っても水が出ない。



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