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天州晴神霊記 第五章――6


「あっ、 待ちなさい」
 追いかけようとした若者の腕に、 写緑が ひしとしがみついた。
 梃子でも動かないぞ という気迫が見える。
「我輩を置いて行かないでくれ。
 妖魔に襲われるのは こりごりだ。
 我輩を家まで送り届けてくれ。 頼む」

「こらっ、 放せ!」
「ぜえーったいに 断る。
 完全室内派の我輩を見捨てるなど、 破魔の剣を持つ者がするべきことではないぞ。
 その剣なら 妖魔を斬れるんだろう」
「破魔の剣じゃなくて、 退魔の剣だ。
 くそっ、 そなたはスッポンか」

 ぐうーっ。

 写録がしがみついた腹のあたりから、 分かりやすい音が鳴った。
「腹が減っているのか? 
 そうか。 吾輩の家に行けば、 食い物があるぞ」
 写録が、 ここぞとばかりに誘惑した。

 四朗五郎は、 動きを止めた。
 衣服や持ち物を売った金も底をついた。
 空腹が そろそろ限界に近い。
 そうでもなければ、 むざむざと写録なんかに捕まる男ではない。
 家出してから 腹が立つことばかりだ。
 腹を立てると ますます空腹感が増す。
 誘惑に勝てなかった。

 四郎五郎は 鬼道門家との縁談には始めからムカついていた。
 政略結婚など 考えたこともなかった。
 伴侶には好きな女を選ぶと決めていた。
 家出して 都に来てみれば、
 怪しい噂に一喜一憂するさまに、 不穏な空気に、 愕然とした。
 放って置いたら、 不本意な縁談は消えないだろう。
 かといって、 こんなことで故郷を捨てるのも業腹だ。
 面白くない。
 天州晴に平安を取り戻し、
 小細工など必要ないことを知らしめしてやろう と決心した。
 どうやら霧呼という巫女も、 騒ぎをおさめようとしているらしい。

「おい名探偵。 さっきの二人とは知り合いか」
 諦めるつもりの無い四郎五郎は、 写緑に問いかけた。
「全然。 無理やり連れてこられただけだ。
 今日が初対面。
 そっちの方が知り合いに見えたが 違うのか」

「名前は知っている。
 が、 何処に行けば会えるかが分からない」
「なんか よく分からないが、 事情がありそうだな。
 しかし 我輩に聞いても無駄だぞ。
 よく知りもしない 今日が初対面の人間と 何処に行けば会えるかなぞ、
 いくら我輩が名探偵でも…… あっ、 …… いや、 なんでもない」

「どうした。 何か知っているのか」
「論理的根拠は何もない。
 勘だけを頼りに いい加減なことを発言しては 名探偵の名がすたる。
 なんでもない。 忘れてくれ」



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