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天州晴神霊記 第五章 探偵登場――1


 何事もなく、夜が明け、 斎土府から 光石盗難事件が公表された。

〈犯人は 鋭意捜索中である。
 四―九八七の灯篭には、 すでに 本物の光石が設置済みなので、 魔封じに支障はない〉

 との内容に、 都人が安堵したのは、 しかしほんの一時にすぎなかった。
 斎土府は嘘を言っている。
 今度は そういう噂がたちまちのうちに立ったのだ。
 もはや処置無しである。
 斎土府は信用されていない。
〈作戦その三〉をあざ笑うかのように、 巷の雰囲気が どんどん良くない方向に向かっていた。

 噂の広まる速度を、 実験によって計測した学者がいたという。
 それによると、
 その時代、 その社会において、 人間が取り得る最速の移動手段に匹敵する という結論が出た。
 移動手段が 徒歩しかなければ 徒歩の速さで、
 空飛ぶ機械があれば その速さで 広まるということだ。
 噂を舐めてはいけない。

「こつこつやっても 追いつきそうにないわ。
 いっそ 〈作戦その一〉のほうが うまくいきそうな気がするくらいね」
 斑を探しに来た孔雀町で、 斎布は思わずぼやいた。
 ゴロツキが 朝っぱらから屋外行動を開始するとは思えなかったので、
 やってきたのは午後である。
 斑は 見つからない。 腹の立つ奴だ。
 いつぞやも見かけた、 てるてる坊主に似た小男が 素早く通り過ぎるのに出会っただけだった。

 一方、 町の様子は昨日にも増して 不穏な空気が漂っていた。
 暗い表情で そそくさと行過ぎる人々が、 ふと立ち止まり、
 小さな人だかりになっている一角に気がつく。

 二人が 人だかりの中心を覗いてみると、
 小太りの男が 手入れの行き届いた鯰髭(なまずひげ)を撫でながら、 したり顔で話していた。
 年は 三十になるやならずだろうが、
 髭といい、 したり顔といい、 態度がえらそうである。

「昨日流れた噂は、 まことに持って 真実そのものであった。
 噂というものは、 当てにならない いいかげんなものが多いが、
 昨日の噂は 朝廷の発表と寸分の違いもない。
 出所が同じであれば、 今回の噂も信憑性が高い。
 そもそも 犯人が捕まったとは聞いていないにもかかわらず、
 光石が戻っているというのは 論理が通っていない。
 然るが故に、 はなはだ遺憾ながら、 安心はできないのであーる」

「するってえと、 やっぱり まだ贋物なのかい」
 野次馬がざわめき、 中の一人が 思い切ったように男に確認する。
「論理的に考えれば、 その可能性が高い」
 困ったものだと思いながら、 斎布は近くに居た 気の良さそうな小母さんの肩を 指先でつついた。
「あの人は 誰なんですか」

 振り向いた小母さんに問いかける。
「近頃売り出しの名探偵 写緑(しゃろく)ですって。
 喪流愚(もるぐ)横丁の殺人事件を解決したり、
 からくり屋敷で消えた子どもの居場所を当てたり、
 傾城楼(けいせいろう)の置物の狸を盗んだ犯人を当てたりしたのよ。
 あたしも名前だけは聞いたことがあるんだけどねえ。 実物を見たのは初めて。
 都じゃ ちょっとした有名人よ。
 写緑さんが言うんだから、 やっぱり安心しちゃいけないのかねえ」
 小母さんは 怯えたように肩をすくませた。

 放っておきたくないが、 光石に予備があるのだということは、 一夜姫に口止めされている。
 さて、 どうしたものだろうかと思案していると、 志信が大きな声をあげた。
「大丈夫だ。 光石は本物だと思うぞ」

 写緑とその周りにたかっていた野次馬たちが、 いっせいに 志信に視線を向けた。
「坊ちゃんは 何か知っているのかね」
 キラリと目を光らせて問い返してきた写緑に、 斎布は焦った。
 名探偵に突っ込まれてしまった。
 まずい。 約束を思い出せ!  志信。



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