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クロウ日記 三

 やがて、 省内が 落ち着きを見せた頃、
「執務室が 気に入らない。 雑然として 風流に欠ける。 掃除をしようと思う」
 と、 クロウが 言い出した。

「では、 下官の者を 呼びますゆえ、 お好きなように ご指示を お申し付けください」
「いや、 誰も呼ばなくて良い。 自分でする」
「いえ、 それはちょっと。
中務卿に 御自らお掃除をさせるなど、 もってのほか でございます。
どうぞ 遠慮なく こき使ってやって ください」

「私を 殺す気か。 退屈で 死にそうなのだ。
どうしても駄目なら、 他に面白そうなことを 考えなくてはならぬ」
 あわてて 了承された。
 妙な騒ぎを起こされるよりは、 掃除でも何でも させておこう。
 外聞は悪いが、 内緒にしておけばいい。

 確かに 退屈なのは 理解できる。
 今のところ、 仕事は 宮中の行事をはじめ、 クロウが就任する以前からの流れで 動いていることばかりで、
 本当に することが無いのだ。
 執務室にこもって コツコツ掃除に励んでくれれば、 かえって 安心かもしれない。

 手伝いも一切断って 全員追い出し、 まずは 軽装に着替え、
 腕まくりをして 備品の整理をしてみると、
 どういうわけか 重複しているものが かなりある。
 入用になりそうな予備を除き、 余分なものは 配下に下げ渡した。
 どれも一級品ばかりで、 これは 大いに喜ばれた。

 次には 立派な書類棚の中身である。
 よく見ると どうでも良いような書類ばかりだ。
 最終決定された 形ばかりの報告書で、 旧いものから丹念に見ていったが、 毎回変化が無い。
 基本のものを残し、 変更が出た部分だけを纏めて 書き直した。
 書き手が替わった場合の基本形は残し、 どんな些細な変更も見逃さず、 漏らさなかったが、
 それでも、ぎっしりあった書類は 四分の一に減った。

 その結果、 書類棚に 大きな空きが出来た。
 仕切り板は 外して動かせるような 作りである。
 クロウは 不要な仕切りをどけて、 出現した大きな空間を眺めていたが、
 何を考えたのか、 もぐりこんで 内側から扉を閉めた。

 それ以降は 戸棚の暗闇で、日がな一日 引きこもって過ごしたが、
 人気の無い執務室を気にする人間は、 なかなか 現れなかった。
 自身を収納したクロウは そのまま気づかれること無く 放っておかれ、
 幾日かが 過ぎた。


 そうしたある日のこと、 やっと 部屋の外から人の近づく気配がした。
 クロウに向かって声をかけていたが、 返事が無いのをいぶかしみ、
 様子を確かめようと 恐る恐る部屋に入ってきた人物が二人いる。

「おお、 部屋が随分とこざっぱりしたようだが、 主の姿が見えないようだ。
飽きてくださったのであれば重畳。
何処ぞで 遊んでいらっしゃるなら 面倒が省けて助かる」
 ナユタの声だ。

「この時期は 丁度宮中行事も無く、
各部署で 移動をはじめ 仕事の動きを抑えておりますから、
そろそろ と思っておりました」
 もう一人の声が 応じる。
「皆の協力のおかげだ。
これで 仮令(たとい)有ったとしても やる気など消えただろう。
後は お気楽な置物に仕立て上げれば、 以前と変わらず 上手くやっていける」
「これまでどおりに ナユタ様の天下。
われわれも 甘い汁のお零れが いただけるというものです」
 他に人目の無い 無人の執務室 と思って交わされる会話は、
 胡散臭い内容を 孕(はら)んでいた。

 書類戸棚の中で、 クロウは 欠伸をかみ殺した。


 それから数日後、 みすぼらしい身なりで 腕まくりと頬かむりをした男が、
「お掃除に 参りました」
 と中宮司(なかのみやのつかさ)に現われ、 勝手に そこらを整理し始めたが、
 誰も その男を気にしなかった。
 備品はきちんと整えられ、 書類も見事に分類されて、
 ぎっしりと詰まっていた棚や戸棚に 大きな空きができた。

「旧い書類は 庫に納めました」
「ご苦労であった」
 その男が 中務卿だなどと気づく者は、 ついに 一人もいなかった。
 いつの間にか空いた書類棚に 人が隠れる場所が出来ていることなど 知るよしも無い。

 それ以降、 中務省の各部署には まめな掃除人が出没し、 次々に 書類が整理されていった。

「あまりに間抜けだ。 警戒心も無さ過ぎる」
 各部署で見つけた不審な事柄と、
 盗み聞きした不審な会話や怪しい噂 を纏めた膨大な覚書を手に、
 クロウは 呟いた。

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コメント
1646:久しぶりに来ました。 by 楓良新 on 2013/09/25 at 01:28:51 (コメント編集)

自分で掃除しようとするなんて感心です。何でも下任せと言うのはいかんと思いますからね。

ナユタとその配下の人はクロウの事、良く思ってないんですかね?なんか悪口言ってるみたいだし。

1647:Re: 久しぶりに来ました。 by しのぶもじずり on 2013/09/25 at 17:04:00 (コメント編集)

楓良新様、いらっしゃいませ。

王子様なのに、自分でお掃除しちゃうところが変人ですよね。

ナユタにはナユタの思惑があって、邪魔になって欲しくない、というところでしょうか。

コメントをありがとうございます。

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