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天州晴神霊記 第四章――4


 やれやれ と頭を振りながらも 憮然として答えたとき、
 見知った人物が目に飛び込んできた。
 山の若様だ。

 正体不明とか 意味不明が都人の条件ならば、 この人も当てはまる。
 世の中を斜めに渡っているような 拗(す)ねた感じは、 大内裏に居ても変わらない。
 わざと着崩した姿で てれてれ歩いてきた。
「んっ、 また会ったな」

「あんた、 何で こんなところに居るんだ?」
 気づいて声をかけてきた若様に、 志信が問いただす。
 孔雀町のように雑多な街中と違い、
 整然として 忙しげなたたずまいの大内裏では、 見事にういている。

「つまらん野暮用だ」
「そうじゃなくて、 あんたみたいな人が 何故大内裏を歩いているんだ。
 場違いもはなはだしいぞ」
「庭のようなものだ」
「大きく出たな。 あれっ、 不思議な匂いがする」
 志信の指摘に思い当たったのか、 少し考えた若様は、 懐から匂い袋を取り出した。

「あげないよ。 君も大人になったら、 美しい乙女にもらうといい」
 見せびらかすように目の前で振って、 また懐にしまいこんだ。
「ふううん。 もらい物か。
 俺だって きれいな小母ちゃんたちや お姉ちゃんたちに、 山ほどお菓子を貢がせてるぞ。
 負けていないと思う」
 志信は対抗心を燃やして、 無駄に胸を張った。

 斎布のところまで、 ふわりと香が漂ってきて、 ふと首をかしげた。
 なんとなく覚えのある香だ。
 頭の奥が ざわざわした。

 なんだか都に出てから ろくなことが無い。
 根拠の無い不安に怯えている都人はバカだ と思っていたが、 根拠はあったのだ。
 怪しい流言飛語が飛び交い、 妖魔が頻繁に出没している。
 孔雀町のごろつきが 斎布に絡んできたのも、 よく考えるとおかしいのだ。
 斎布の姿は 巫女に見えるはずだ。
 神官や巫女に因縁をつけるなど、 よほどのワルでもしないものだ。
 乱れている。
 色々な事が 様々に乱れている。
 挙句の果てに、 光石の盗難だ。
 不安になる根拠は、 表に見えなくても、 確かにあったのだ。

 根本の問題は、 いったいなんだろう。
 遠くはなれた地に起こった 喜谷部・門多義戦争の影響だけなのだろうか。
 争いは 確かに人々の心を蝕む。
 しかし、 皮肉なことに 大きな経済が動くのも確かだ。
 戦争とその後の復興支援で、 都には 儲かった人間がいてもおかしくない。
 なんとか収まりつつある今、
 ますます治安が悪化しているのには、 他に原因があるのかもしれない。

「霧呼様、 どうかしたのか」
 一人で ぶつぶつと考えていた斎布を、 志信が心配そうに覗き込んだ。
 知らない間に 貢がせ自慢は終わっていたらしい。
 若様の後姿が離れてゆく。

「ねえ、 志信。 不安の原因はなんだと思う?」



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