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天州晴神霊記 第四章――3


 内侍が水を持ってきた。
「内裏の井戸じゃ。 冷たくて美味いぞ。
 これだけ暑いと、 そろそろ 暑気払いをせねばなるまい。
 去年の 『熱闘我慢比べ』 は面白かったが、
 熱中症で バタバタ倒れる者が続出して、 宮中が機能停止に陥ってのう。
 各方面から苦情が殺到した。
 今年は 『大内裏一周そうめん流し』 を考えておる。
 それなら 涼しそうだと思わんか」

「大量の水が必要になりますな。 無理でしょう」
 一夜姫の思い付きには慣れているのか、 宗靭は平然と答えた。

「いい考えがあるのだ。
 陛下は このところ 治水にハマっていてな。
 都の人口が 今後も増え続けることを想定して、 紫水川から 新たに上水道を引こうとしておられる。
 井戸と湧水だけでは賄えなくなる とお考えなのであろう。
 すでに 竜神川との合流地点から 都のすぐ近くまで 高架水路ができておる。
 開通も間近じゃ。
 そこから文字通り横流しをすれば 簡単に水を流せる。 抜かりはない」
「水の横流しですか。 いやはや」
 宗靭も、 今度はあきれた。

 一夜姫に水椀を差し出した内侍が、 続いて 三人の前にも水椀を置こうと近づいたとき、
 志信が 無遠慮に言った。
「内侍殿と何処かで会ったような気がする。 どこだろう」
 突然のことに、
 内侍は 椀を取り落としそうになり、 少しだけ 水がこぼれた。
 引きつったように 志信の顔を見たが、
 本気で分からないらしく 首を捻っている。

「若者よ。 その手は古いぞ。
 内侍は まだ初心で素直な反応をしているが、
 好き者の公達らに 年中粉をかけられまくっている古い女官なら せせら笑うぞ。
 もっと策を練らねばな。
 要研究じゃ。 かっかっかっ」

 豪快に笑う一夜姫と、 ひとしきり馬鹿話をして、 三人は退出した。


 斎土府の建物を出れば、 いまさらながらに 広々とした敷地が広がっている。
 暑い盛りに素麺を一周させたら、 最後は きっと温麺(うーめん)になるだろう。

 宗靭が立ち止まった。
「私は 他の用件で行かなくてはならない所があります。 お先にお戻りください。
 志信、 後は頼む」
 宗靭は それだけを言い置き、 せわしない足取りで 中心部へと去って行った。

 一夜姫の反応に 肩すかしを食らった気分の二人は、
 のんびりと 一条路大門を目指して歩き出す。
 しかし 斎布はやはり気になっていた。
「いったい 何を考えているのかしら」

「……誰が?」
 一拍おいて、 志信から 問いが返される。
 そういえば、 何を考えているのか分からない人だらけだ。
 都って そういうところなのだろうか。

「光石盗難事件の犯人よ」



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