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犬派のねこまんま 27である     byねこじゃらし

<山の中には、紫色のトンネルがあったりするのだ>


 学生の時、 短い間だったが 学生寮に入っていたことがある。

 学舎は うんざりするほどの坂を登った てっぺん近くにあり、
 が降ったりしようものなら、
 スキー板無しでも、 バス通りまで 一直線に滑り降りられそうなほどであった。
 逆に、 バスを降りてから、 学舎にたどり着くのが至難の技になる。
 ほとんど 罰ゲーム だ。

 その坂は 急勾配の上に、 長い。
 雪が降ると、 学生が、 たちまち うんざり顔になる。
 まあ、 雪が降らなくても、 楽な通学路とはいえない。

 しかし、 全ての事柄には、 短所があれば長所だって見つかるものだ。
 むちゃくちゃ 体力が増強される

 体育学科が併設されていることもあって、 毎年、 本格的な体力測定 が行われていた。
 我らは、 どう考えても 体育とは縁もゆかりもない学科に居たのにも関わらず、
 付き合わされた。

 一年生は、 全国平均と同じくらいの結果になる。
 二年生になると、 全国平均をかなり上回る。
 三年生は、 もはや鉄人だ。
 四年生、 アスリートでもないのに、
 こんなに丈夫な二十二歳女子は、 現代において めったにいない。


 学生寮は、 そんな学舎の裏にあった。
 坂道を毎日上り下りしなくても良い という 特典 以外、
 自慢できるところが微塵もない寮であった。

 一歩敷地を出れば、 山である。
 その裏山を少し歩くと、 「鳥獣保護区域」 という看板がある。
 さらに進むと、 ダムで造られた 人造湖 だってあった。
 豊富な山野草が生い茂り、
 秋の夜長には、 子狐の鳴き声が聞こえたりもしちゃうのだ。

 はるばる坂を下っても、 たいした店もない。
 修業中 じゃないんだからと言いたい。

 よほど暇を持て余した ある春の日のことである。
 吾輩は、 「鳥獣保護区」 に足を踏み入れた。
 街中では 方向音痴ぶりを 遺憾なく発揮することがあるが、
 何故か 山道では迷わない という習性を持っている。
 一人で どんどん分け入ったのであった。
 なんせ「鳥獣保護区」である。
 人影はない。
 草木は、 うんざりするほど生い茂っている。

 獣道らしい細い隙間をたどり、 勢いよく伸びた緑の塊をのけると、
 そこに 紫色のトンネルが出現したのであった。
 木に絡まって伸び、 頭上でつながったが、 満開の花を咲かせていたのだ。

 藤は 大喰らい だと聞いている。
 肥料がたっぷりないと、 たくさんの花は咲かないと、どこかで聞いた。
 だから、 野性の藤は、 当たり年と外れ年があるという。
 たぶん 当たり年だったのだ。
 それは見事な 藤の花のトンネル だった。
 吾輩は 迷わずトンネルに入った。

 藤は、 花弁ではなく、 豆の花によく似た形の花が、 一個ずつ落ちてくる。
 その一つ一つが、 くるくると回りながら 落ちてくる
 トンネルの中は、 風も無いのに 紫色のくるくる でいっぱいになった。
 不思議な夢の世界だ。

 お釈迦様がお生まれになった時、 天上から 花が降ってきたというのを思い出した。
 新しい、 何か素敵なものが生まれてくるような。
 細々とした日常の憂さなど、 どこかに溶けだし、 世界に祝福 されているような。
 なんとも言えないほど 心地良い。

 さすがは「 鳥獣保護区」である。
 翌年には寮を出て、 この地を離れたから、 たった一度の出会いになった。



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コメント
1292: by 八少女 夕 on 2013/04/23 at 04:23:33 (コメント編集)

こんばんは。

人里離れた藤のトンネル!
それは羨ましいです。
一生に一度でいいから体験してみたいですねぇ。

1293:Re: 八少女 夕様 by しのぶもじずり on 2013/04/23 at 14:46:33 (コメント編集)

うらやましいでしょ。
私も、あんなのは最初で最後でした。
人工的な藤棚の下とは別世界な感じでした。
うっそうとした山道に、忽然と現れたのもドラマチックでした。
自然の風景はすごいです。

1296: by lime on 2013/04/25 at 18:09:14 (コメント編集)

紫色のくるくる・・・が、すごく想像できます。
誰も知らない、くるくるの雨の中に佇むねこじゃらしさん。
なかなか体験できない、いい思い出ですね。

1297:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2013/04/25 at 20:00:58 (コメント編集)

ほーんとにきれいで、不思議な感じでしたよ。
花の散り方も それぞれですねえ。
藤棚のある露天風呂に入ったこともありますが、規模が違いました。
鳥獣保護区ですから。

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