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天州晴神霊記 第三章――16


「退魔の剣だからな」
 若者は 無造作に答えた。
「閼伽丸の剣は、 俺の兄が託した『火照(ほでり)の剣(つるぎ)』という。
 俺の『白應丸(はくおうまる)』より格上の剣なのだが、 力を出してくれないらしい。
 退魔の剣は 使い手を選ぶ」
 うなだれる大男に、 ちらりと残念そうな視線を送った。

 二人の男は 何者なのだろう。
 斎布は ものすごく気になったが、 聞いてしまえば こちらも名乗らなくてはならなくなる。
 鬼道門の名を出すわけにはいかない。
 喉まで出かかった質問を ぐっと堪えた。
「そうか。 がんばれ」
 退魔の剣に関するどーのこーのは 軽く流して、 志信は 下げ行灯を灯篭に向けた。
 四―九百八十七 と小さく彫られている。

「こいつ故障してるのか。 叩いたら治るかなあ」
 大路灯篭には 丸い石がちゃんと載っている。
 ただし、 一筋の光も発していなかった。

「どれどれ」
 後ろから若者の手が伸びて、 石をつかんだ。
 片手で軽く投げ上げて もてあそぶ。
「ちょっとぉ。 乱暴に扱っちゃ駄目よ」
 斎布は あわてて止めようとした。
 故障しているのかもしれないが、 一応は 都を守る大事な石だ。

「これは贋物だ。 軽い」
「えっ、 光石の重さを知っているの?」
「そこいらにいくらでもあるし、 都名物だというから 触ってみたくもなるだろう」
 傍若無人な発言に、 斎布は目を丸くした。
「落したらどうするのよ」
「すこぶる頑丈だ。 大丈夫だったぞ」
「………… 落としたのね」
 これだけそっくりな贋物が残されているということは、
 故意にすり替えられたということだ。
 事故ではない。 事件だ。

「なあ、 霧呼様。 邪気が流れ出してるぞ。 また一晩中あれをやるのか」
 志信が 斎布の袖を引っ張った。
 先ほどの妖魔が、 通りすがりの邪気を吸い取っていたのだろう。
 妖魔が消えた後は 鎮まっていた四条大路に、
 新たにに引き寄せられてきた邪気が、 東雲町に向かって 少しずつ流れ始めていた。

「巫女殿。 結界を。
 四―九百八十六番と九百八十八番の間に結界を張れば、
 とりあえずは防げるのではないかと」
 閼伽丸が 遠慮がちに提案してきた。

「けけけけけ結界…… 今 持ち合わせが……」
 指名された斎布が、 あわてて どもる。
 志信を見れば、 横に首を振っている。

「すみません。 無理でしたか」
「やってやれないことはないのよ。 でも得意じゃなくて。
 持っている力を総動員でかき集めて、 なけなしの根性と 精一杯のやる気を込めても、
 せいぜい半日しか持たないの」
「良かった。 夜明けまでは 持ちますね」
「あはっ」なんだ。 問題なかった。

 邪気が流れ出ないように結界を張り、
 送り届けると言って聞かないのを 必死に撒いて逃げた。
 水輪繋の森を駆け回っていたから、 走るのは得意だ。
 地理にも詳しくなっている。

 屋敷に帰り着いたときには、 どっと疲れが出ていたが、
 頑張って 宗靭を叩き起こした。

「事件よ!  光石が盗まれていたわ。 星都の、 天州晴の 一大事よ」



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