RSS

天州晴神霊記 第三章――13

 霧呼紐を少しずつ繰り出しながら、 目いっぱい大きく振れば、
 次第に 濃い霧が充満していく。

 その間も 邪気は流れ込んで、 ボコボコと妖魔を生み出そうとしていた。
 充分に濃い霧が すっぽりと町の一角を覆ったのを見定めて、
 志信は 剣を地面に突き立て、 両手で印を結んだ。

 と、 危険を察知したのか、 一匹の妖魔が宙に飛び上がり、
 空飛ぶツチノコになって 一直線に 志信に襲い掛かった。
 志信は無防備だ。
 斎布が、 紐を引き寄せざまに弾き飛ばした。

 斎布は 急に怖くなった。
 邪気が おとなしく待ってくれるわけが無い。
 志信は 剣を振るえない。
 無謀な作戦だったかもしれない。 背筋が冷たくなった。

「任せた」
 志信は眉一つ動かさず言ってのけ、 精神を集中して 次々と印を結ぶ。
 そこに 狙いを定めたように、 次から次へと妖魔は飛んできた。
 躊躇している暇はない。 志信の命が掛かっている。
 斎布のちょっとした思いつきのせいで、 失くすわけにはいかなかった。

 次々と襲いかかる妖魔は、 全て 志信を狙ってくる。
 守れるのは、 斎布だけだ。
 霧呼紐が 妖魔を打ち散らして 乱れ飛ぶ。
 縦横無尽に振られる紐からは、 筋を引くように 新たな霧が湧き出し、
 東雲町の夜が 闇と霧に満たされた。

 夜の底から、 志信が発した 裂ぱくの気合が突き抜ける。
 街を包んで白く漂っていた霧が、 淡く不思議な色合いをみせて、 キラキラと煌めいた。
 妖魔たちの断末魔の叫びが ここかしこから上がり、 のたうちながら消えてゆく。

 やがて、 静けさが戻った。
 額に汗をにじませた斎布が、 ほうっと息を吐く。
「…………あれって、 魘妖(えんよう)なの?  初めて姿を見た」
「よし!  やったあ。 俺たち最強だな」
 のんきに笑う志信を見て、 斎布は もう一度深く息を吐いた。
 志信の思い切りの良さには あきれる。

「突っ走りすぎ。 ひやひやした」
「大丈夫だったろ。 俺だって 霧呼様じゃなかったら、 たぶんやめてるぞ。
 なんてったって、 霧呼姫だものな」
「えっ」
 信頼され、 命を預けられたのだと悟って、
 斎布は 胸の中が 何やら分からないものに満たされていった。
 ちょっと ボーゼン。
 人から信頼されるって、 なんだか、 とっても、 ものすごい。
 少し自分が大きくなったような気がすると共に、 もっと頑張ろう という意欲がふつふつと湧き上がってくる。
 なんだか ドキドキしてきた。
 期待していたドキドキとは ちょっと違うけれど、 この際何でもいい。

 だが、 成功に浸っていられたのも長くは無かった。
 押し寄せる邪気が止まっていない。

「もう一度やるしかないわね」
 疲れを押して、 やる気を見せた斎布が 霧呼紐を握り締めたとき、
 コケコッコーッ、 どこかの雄鶏が 威勢の良い声で鳴いた。

 東の空が しらみはじめていた。
 短い夏の夜が明けてゆく。
 邪気の流れが ゆるゆると方向を変えて 南西の方角に戻っていった。
 爽やかな早朝の光の中、 どんよりとした二人が 肩の力を抜いて立つ。
「とうとう徹夜しちゃった。 さすがに眠いわ」
「うん、 腹ペコだ。 早く帰ろうぜ」

 周りを確かめることもせず、 帰ってゆく二人の後姿を、
 物陰から 一部始終を覗いていた視線が、 よくかき混ぜた納豆みたいに ネバネバと糸を引いて見送った。

「邪気の仕業だったのかあ。 やっぱり、 あちきも、 あれが欲しいなあ」



戻る★★★次へ

トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア