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天州晴神霊記 第三章――10


 斎布は志信を連れて、 陽のあるうちに屋敷を出た。
 目的は都の東、 東雲(しののめ)町。
 一度行ったことがあるが、 少々遠い。
 たちが悪そうな邪気を見逃した場所だ。

 その一帯で、 夜な夜な寝ている人間がうなされ、 叫び声をあげたり 暴れたりすることが頻発している。
 医師の見立てでは、 病の判断がつかない。
 邪気の仕業かも知れず、 調べて、 出来ることなら対処して欲しい。
 文には そう書かれてあったのだが、
 邪気ならば、 たいした悪さをする間もなく、 光の五芒星に引き寄せられるはずだ。
 藪医者の 見立て違いだろう。
 斎布は 気軽な気持ちで出かけた。

 問題の場所は、 都大路から離れているし、 夜は静かな町だと聞いて、
 夜目の利く二人ではあったが、 念のために 携帯便利な折りたたみ式下げ行灯(あんどん)を用意した。
「帝ってすごいなあ。 九尾の狐が狸に化けたら 侮れないよなあ。
 千年妖怪のお友達は怖いけど、 白塗りのお天気お姉さんは ハンパなく怖い。
 無事に暮らしていけるのかなあ」
 やはり噂を聞いたらしい志信が、 歩きながら感心することしきりである。
 面白い怖がり方をしている。

 東雲町に入って間もなく、 夕暮れになった。
 職人たちが仕事を終え、 昼間の騒音が嘘のように静かだ。
 夕焼けの赤い光が 長い影を作っている町の通りを進んでいた斎布の足が、 ふと止まった。
 少し先に 見知っている人物がいた。
 山の若様だ。
 この広い都で 同じ人間に度々出くわすなど めったに無い偶然だ。
 しかも まったく違う場所だったことに驚いて、 斎布が足を止めたのも当然といえる。
 出会うのは三度目だが、 少し様子が違って見えるのは、 髪を いくらかきちんと括っているからだろうか。
 若いおとなしそうな娘と一緒だ。
 夕陽に照らされて、 娘の頬が赤く染まっている。

「ありがとうございました。 こんなに良くしていただいて、 嬉しゅうございます」
 娘の落ち着いたゆっくりとした声が、 距離があるにもかかわらず、 はっきりと聞こえてきた。
「気にしないでください。 助かったのは こちらのほうです」
 若様の口調は いつもと変わらない。

「本当に、 お優しいのですね」
「優しい。 私が?」
「はい。 ぶっきらぼうを気取っていらっしゃっても、 私には分かります」
「…………」
「他人にはうかがい知れぬような ご苦労をなさっておいでなのかしら。
 人の痛みが分かる 純粋で優しいお心を お持ちなのですわ。
 私には分かります」
 若様は、 戸惑っているような、 驚いているような、 なんとも複雑な表情をしている。
 以前見たときは、 世間に対して斜めに構えているような、 拗ねた感じがあったのに、
 心なしか背筋も伸びて、 まっすぐに娘に相対している。
 様子が違って見えるのは、 そのせいだ。
 斎布は腹立たしくなって、 手前の角を曲がり、 道を変えた。



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