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マル子とペケ子のおとぎ話問答 カチカチ山編

        

「こんにちは。 ペケ子さん、 生きてますか」
 マル子が久しぶりに、 ひょっこりと顔を出した。

「おっとどっこい、 生きてるよ。
 死人の私に用があったなら、 お生憎さまだけどね」
 逆襲されて、 マル子はパタパタと手を振った。
「ちがいますよ~。 久しぶりの挨拶ですってば」
 あわてて 手土産に用意した煎餅を渡すマル子だったが、 ペケ子は いつもよりも不機嫌そうだ。
「あらやだ、 そんなにデリケートでしたっけ」
「なんだ、 煎餅か。 甘いものが良かったな」
「今度来る時は、 そうします」

 ペケ子は、 冷蔵庫から バターを取り出した。
 煎餅に こってりとバターを塗って、 食べ始める。
「昔話の朗読を まだ迷っているのか」
 ペケ子が 遠慮なく手土産を齧りながら聞いた。

「それ、 美味しいですか?」
「質問に対して、 無関係の質問を返すのはよくないと思うな」
 文句を言いながらも、 ペケ子は、 煎餅のバターのせを作り、 マル子に差し出した。
「どうも。 とっさに疑問が湧いたものですから。 ん~、 煎餅とは言い難いものになってますね。
 読み聞かせはやりましたよ。 面倒になったので、 無難に『桃太郎』にしました。
 クレームとか、 ウンチクとかはありますか。 あっても、 遅いですけど」

「いや、 特にない。
 『桃太郎』に関しては、 すでにいろんな人が いろんなことを言っているし、
 歌舞伎もあるし、 落語もあるしなあ」
「歌舞伎に落語ですか。 桃太郎やりますね」
「かぐや姫だって 映画になってたと思うよ」
「そうか、 昔話は 物語の原点ですものね。
 あらやだわ。 お煎餅のバターのせ、 はまりそうで、 いやだわ」
 マル子は、 手に取った煎餅にバターを塗ろうとして、 ためらった。

「海外物では、 シンデレラなんか使い倒されてるよね。
 シンデレラストーリーというジャンルになっている。
 映画の『プリティウーマン』では、台詞で自らばらしてる」
「昔話には、 物語の原型が出そろっているのかもしれませんね」
「『猿蟹合戦』とか 『カチカチ山』は 仇討物の原点かな。
 復讐譚ていうジャンルもあるよね」
「ふむふむ、 そういえば、
 昔は定番だったらしい そういう昔話を、 最近は あまり読む機会がない気がしますけど、
 海外の昔話に押されちゃったのかしら」
「うん、 そうだね。 帰化植物に蹂躙されている日本の野草みたいだ。
 理由は それだけじゃないと思うけどね」
 ペケ子は、 ズズーッと渋茶をすすった。

「他に、 どんな理由があるんですか」
「君たちの得意な、 教育的配慮 というやつだ。
 そいつが、 日本の昔話を骨抜きにしてしまった」
「やっぱりクレームですね。 バターください」
「無理しなくていい。 煎餅だけ食べてなさい」
「バターください」

「ちっ、 私の必須アイテムなんだから、 大事に使うように。
 今夜のみそ汁用が無くなるじゃないか」
「ペケ子さんたら、 味噌汁にもバターを入れるんですか」
「何をいまさら。 ラーメンだって味噌バターは好きだ。
 御椀に入れた味噌汁に、 ひとかけらのバターを入れて仕上げる。 やみつきだ」
「ラーメンなら許可します。 でも……みそ汁ですか」
 マル子は ペケ子の食生活が心配になった。

「豚汁は嫌いか?  狸汁ならどうだ。 脂肪分と味噌は相性が抜群だ」
「食べたことないですから、 狸汁」
「そうだろう。 私もだ。
 そこで『カチカチ山』だけど、 ポイントは狸汁だな」
 強引に話題転換を図る ペケ子なのであった。
「カチカチ山って、 そういえば、 あまりなじみが無いです。 どんなお話でしたっけ」
 マル子は、 思い出そうとしたが、 さっぱり出てこない。

「昔々、 あるところに、 お爺さんとお婆さんがいました」
「定番の始まり方ですね」
「ある日、 お爺さんは、 畑を荒らす狸を捕まえて 家に持ち帰りました。
 『今夜は狸汁にしよう』と言い置いて、 お爺さんは仕事に戻りました。
 縛られた狸は、 手伝いをすると言って お婆さんを騙し、 縄を解かせて、 お婆さんを殺しました」

「確かに、 教育的配慮が必要ですね」
 マル子は、 重々しくしかめっ面をした。
「お爺さんが帰ってくると、 お婆さんに化けた狸が勧めます。
 『狸汁ができているから たくさん食べてね』」
「あれっ?  狸が狸汁を進めるんですか。 変です」
「お爺さんが食べ終わると、 狸が 化けの皮をはいで 言うんだな。
 『やーい、 ばばあ汁を食った』

「ばばあ汁!  なんてことを!  カットです。 教育的配慮です」
 マル子の声が 大きい。
 ペケ子は これ見よがしに耳を塞ぐと、 うんざりしたように続けた。
「そうなんだよなあ。
 新しい絵本は、 お婆さんは怪我をするだけで、 生きていたりするんだよなあ」
「当然の配慮です」
 マル子は、 子どもたちの情操を守るべく、 きっぱりと言ってのける。

「狸は逃げるわけだ。
 そして、 婆さんを失くして泣き暮らす爺さんのところに、 兎が来る。
 話を聞いた兎は、 狸を薪拾いに誘う。
 薪を背負った狸の後ろで、 兎は火打石を使う。
 『おい、 カチカチと音がするが あれは何だ』 狸が聞くと、
 『ここは カチカチ山だから、 カチカチ鳥が鳴いているのさ』 兎はしらっと答える。
 薪にパチパチ火が付く。
 『おい、 兎。 パチパチ音がする』 『ここはパチパチ山だから、 パチパチ鳥が鳴いているのさ』
 そうこうしてるうちに、 ボウボウ燃えだす。
 『おい、 兎。 ボウボウ音がするぞ』 『ここはボウボウ山だからさ。 ボウボウ鳥だ』」

「だから『カチカチ山』なんですね。 題名が上手いです」
 マル子は、 感心して パンと手を打った。
「なんだい。 この話を全然知らなかったのか」
 ペケ子は、 呆れながらも話の続きをする。

「背中に大やけどを負った狸に、 兎は 薬だといって唐辛子を塗る。
 狸、 のたうちまわる。
 火傷が治ると、 魚釣りに誘う。 兎が用意したのは 木の船と泥の船
 狸を泥船に乗せ、 兎は木の船に乗り、 湖に漕ぎ出す。
 泥船は溶けだして、 狸は溺れ死ぬ。 どんとはらい」
 ペケ子は あらすじだけをざっと話し終えて、 渋茶をすすった。
 ちょっと 端折りすぎだ。

「もしかして、 泥船に乗るって、 そこからきた喩えですか」
「たぶん そうじゃないのかな。 どう?  感想は。
 お婆さんが殺され、 お爺さんが ばばあ汁を食べさせられたから、
 兎は 立派にお婆さんの仇を打って、 お爺さんの恨みを晴らしたことになるけどさ、
 お婆さんが死んでいないなら、 狸は気の毒だと思わないかい。
 兎がやった事は 酷過ぎないかい。
 狸は畑に悪さをしたけど、 殺されそうになったら 逃げるのは当たり前だ。
 命懸けで逃げる時に、 お婆さんを殴って怪我をさせても、 ある意味、 仕方ないよ。
 畑に悪さして逃げ出すことが、 さんざん酷い目にあわされた揚句に 殺されるほどのことかな? 
 教育的配慮のせいで、 話がめちゃくちゃだよね」

「ん~、 ん~ん~。 教育的配慮をすると、 話自体が成立しなくなるのですね。 困りました」
 ペケ子は、 マル子が唸っている隙に、 バターを冷蔵庫にしまった。
 危ないところだった。

「この調子だと、 『カチカチ山』は 忘れ去られるね。
 子どもにとっては 面白い話なんだけどなあ。
 大人だって、 『忠臣蔵』は好きなのにね」

「『忠臣蔵』は、 いつの時代も人気が高いですよね。 復讐劇は面白いですものね。
 あれっ、 バターは?」
 今のマル子は、 教育的配慮よりも バターの行方が気になっているようだった。
「だろ。 考えても見たまえ。
 浅野内匠頭が切腹を命じられることが無く、 隠居勧告くらいで済み、
 赤穂藩が取りつぶされなかったら、
 吉良邸に討ち入りして 大暴れした四十七士はどうなる。
 悪いのは どいつだ!」
 ペケ子は、 バターを死守した。

「四十七士は、 ただの暴徒になってしまいます。
 そもそも、そんな物語はあり得ないでしょう。 教育的配慮以前の問題です。
 今度来る時、 手土産は バタークリームケーキにします」



マル子とペケ子のお正月へ☆☆☆お父さんたちのゲーム

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1253: by 次席家老 on 2013/04/13 at 10:52:25 (コメント編集)

うちの子達が小さかった頃,
カチカチ山を読み聞かせてたら,
おじいさんが狸汁を食べながら,
「ばあさんのにおいがする」って言う場面には,
ある意味新鮮な驚きでした。
リアルに世の中を教えてあげるのが,
本当の教育的配慮でしょ。

1254:Re: ご家老様 by しのぶもじずり on 2013/04/13 at 12:34:21 (コメント編集)

> 「ばあさんのにおいがする」って言う場面には,
> ある意味新鮮な驚きでした。
うわああ、リアルですねえ。

子どもって意外に平気なんだと思います。
子どもの頃に大好きだったジュブナイル小説を、大人になってから読んでみたら、
あまりに暗い話で、びっくりしたことがあります。

子どもは、ちゃんと 現実と創作された物語を区別できるし、
素直な精神は、大人が考えるより丈夫にできているのではないかとも思います。

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