FC2ブログ
RSS

天州晴神霊記 第三章――7


「小さい邪気も でっかい妖魔も、 要領は一緒だ。 やっつけろ」
 そんなことを言っても水が無い。
 邪気祓いをする時には、 いつも水を用意するのだが、
 寝ぼけて 持たずにそのまま出てきてしまった。
 追い詰められて後退されば、 垂れた霧呼紐が 地面を擦って手にずしりと重い。
 巨大ナメクジが 迫ってくる。

 志信が 気合で蜚魔に追いつき、 消滅させるやいなや 身を翻して駆け寄る。

 水があれば…………。
 ナメクジが 覆いかぶさるようにのしかかってきた。
 ………… あった。

 斎布は 瞬時に集中し、
 霊気を呼び寄せた紐を、 鞭のように振るった。

 たっぷりと水気を吸い込んだ霧呼紐が 妖魔にピシリと当たると同時に、
 志信が 剣を突き刺すように飛び込んだ。
 ンフーング……
 妖魔は 音になるかならないかの悲鳴を残して 消え去った。

 水は いつでもたっぷり手元に有ったのに、 なんて馬鹿だったのだろうと思った。
 どんなに渇いた季節でも霧を呼べる力は、 それだけで 特別に得をしていのだ。
 ほんとに考えなしだった。
 他の術者は どんなに歯がゆかっただろう と久しぶりに反省した。
 水を含んだ霧呼紐は、 うまく使えば 志信の剣より断然便利だ。
 振り回すのは得意だし。
 なんといっても、 小さな頃から 暇なときに振り回しては、 いろいろ遊んでいたのだから。

 ……霧を出しすぎて 遭難しそうになったこともあったっけ。
 そういえば、 あの時は ついでに おかしなものも出てきてしまったのだった。
 …………馬?

 気がつけば、 光石の色が 真っ白に変わっていた。
 そうなってみて初めて、 さっきまでは 少し黄色味がかった色だったのだと分かった。
 光の線に囲まれて、 三人がほうっと息をつく。

「夜に こんなところをふらふらしたら危ないだろ。 気をつけろ」
 山の若様を 志信が下から叱った。
 態度はえらそうでも、 背丈が足りない。

「この時期に霧が出るなど、 風流だなあと思ってね。 見に来ただけだ。
 しかし、 妖魔だったのか。 つまらん」
「つまらんなら、 早く帰ったほうがいいぞ」
「そうしよう」
 若様は踵を返した。
「霧…… 妖魔…… 若い巫女…… ううーん」
 ぶつぶつと呟きながら去っていく若様を見送れば、
「つまらん」
 という呟きが、 ぽつりと置き去りにされた。

 志信が、 我に返ったかのように、 きりりと斎布に振り返った。
「あのさあ。 孔雀町で危ない目に遭ったんだろ。 ごめん。
 俺が離れたせいだ。
 神域の杜では でっかい二人組みに助けられるし、 面目なかった。
 でも、 決めた。
 これからは 俺が絶対に守るから。 何があっても守るから」
 拳を握り締め、 胸を張って宣言した。

 鬼ごっこと虫取りにこだわるお子様だと思っていたのに、
 一人前の男のような口を利くようになったものだ。
 斎布は なんだか嬉しかった。



戻る★★★次へ

トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア