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天州晴神霊記 第三章――3


 子どもほどの大きさで、 形も定まらずに ぐにゅぐにゅと蠢(うごめ)いている。
 たいしたものではない。 螻蟻妖(ろうぎよう)の類だろう。
 まだ距離がある。

 間合いを詰めようと、 志信が一歩踏み出そうとしたとき、 妖魔の後ろに別の影が出現した。
 遠目からも背の高い人間のようだ。
 するりと剣を抜き放った。
「まずい!」
 志信が あわて止めようと駆け寄る。
 妖魔としては雑魚でも、 普通の人間がかなう相手ではない。 危険だ。
 反撃されれば 命を落しかねない。

 だが、 志信よりも早く、 影は気負いも見せず妖魔を切り払い、
 流れるような一連の動作で 剣を納めた。

 んぎょえーっ、 んぐぶ。

 驚いたことに、 不気味な呻(うめ)きを残して 妖魔が霧散した。
 辺りには 邪気のかけらも残っていない。

 斎布は、 影の確かな手際に 思わず見とれてしまった。
 何者なのだろう。 姿を現したのは 若い男だった。
 後ろには 見上げるような大男がいることにも気づいた。
 二人とも 身につけているのは 安物の古着だが、 身のこなしが、 どこか上品だ。

 妖魔を斬った男と目が合う。
 目鼻立ちや 立ち姿の美しさよりも まず目に付くのは、 漆黒の瞳だ。
 荒ぶる魂から放たれたような 力強い光だ。
 それに比べれば、
 後ろの大男の 何もかもが荒削りに出来ている厳(いか)つい容貌さえ、 いっそ穏やかに見える。

「大丈夫だ。 妖魔は退治した。 気をつけて帰りなさい」
 斎布を睨みつけるように動かない若者に代わって、
 大男が 地の底から響くような声で促した。

「あ、 ありがとうございます。 すっごい。 妖魔を斬った」
 目を丸くしたまま、 志信がお礼を言う。
「霧呼様、 帰ろう。 長居は無用だ。 すっかり遅くなった」
 呆然としている斎布の手を引っ張って、 志信は走るようにその場を後にした。

「きりこか……、 閼伽丸(あかまる)、 あの娘の目を見たか。
 吸い込まれそうになった。
 まるで夢の世界まで連れて行かれそうだった」
「そうですか。
 美しい乙女ではありますが、 家出した上に、 これ以上ややこしいことにしないで下さい。
 分かってますね。 四朗五郎様」
 大男が 渋い顔で答えた。

「なんだ。 私は 目のことしか言っていないぞ。 うるさい。
 だいたい なぜ閼伽丸まで家出に付き合うのだ。 帰れ」
「嫌です。
 私が居なかったらどうするのですか。
 ごろつきに絡まれるし、 衣服を売って金にすることさえ思い付かなかったくせに。
 飢え死にしますよ」

 男二人の会話は、 先を急ぐ斎布と志信には届かない。



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