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天州晴神霊記 第二章――12


「残念です。
 人気の春風一座も 星都が戦渦に巻きこまれることを恐れて、 東国の町に本拠地を移す という噂もありますし、
 寂しくなりますねえ。
 まっ、 仕方のないことかもしれません。 ここのところ 不穏な噂も絶えませんから」
「狸やバカ殿様の霊のことか?」

「何です?  それ。
 巨大鰻のような妖魔が、 夜な夜な 大内裏の上をクネクネ飛び回っているとか、
 ゴキブリが増えたと思っていたら 実は妖魔だったとか、
 裏の畑でポチが鳴くので 掘ってみたら、 妖魔だったとかいう噂はご存知ありませんか」

 斎布と志信は 顔を見合わせた。
 その噂は どう考えてもおかしい。
 斎布を出来損ない呼ばわりした輪が、 そんなことになるまで放っておくほど 無能なはずが無い。
 まったく 都人という人種は 根拠の無い噂がそんなに好きなのか、 と斎布はがっくりと肩を落とした。
「霧呼様、 そろそろ帰らないと遅くなってしまう」
 志信に促され、 屋敷に戻ることにした。


 二五ノ目辻の方角だけを確かめ、 来た時とは違う道を通って 帰途に着いた。
 と、 見た覚えのある路地に行き当たる。
 雨宿りをした飲み屋の近くだった。

 五人の男たちが 無様に転がっている。
 全員がボロボロになって伸びており、 ピクリとも動かない。
 かなりのやられようだ。
 斎布の足がぴたりと止まった。 見覚えがある。
 斑という男とその仲間だ。 傍を通るのも嫌だった。

 他の道を通って帰ろうと引き返そうとした時、 バタバタとした足音と声が聞こえた。
「先生、 早く診てやってください。 ここです」
 前掛けをした白髪交じりの親父が、 奇妙な男を引っ張っている。

 つれてこられた男は、 背はすらりと高いが 痩せて顔が青白く、
 いかにも不健康そうで、 医者というより患者といわれたほうが 納得できる。
 爬虫類のような ぬめりとした雰囲気を持っていた。
 斎布と志信を ちらりと見ただけの 瞬きをしない目つきが、 まとわり付くように粘っこく、
 志信は 背筋に寒気が走った。

「なんだ、 まだお子様じゃない」
「管虫先生、 怪我人はこっちです」
 どこかで聞いたことのある名前だ。
 医者は 面倒臭そうにしながらも、 転がっている男たちを調べはじめた。

 一通り診察を終えた管虫は、 世にも悲しそうな顔をする。
 陰気な表情は、 この世の終わりに立ち会ったかのごとく陰鬱だ。
 様子を見ていた斎布と志信は、 てっきり手遅れだったのかと思った。

 しかし、

「大丈夫なんですね」
 白髪の親父が ほっとした声を出した。
「こんなもの、 唾を付けて寝かせておけば大丈夫。
 見た目は派手だけど、 命にかかわる急所をきれいに外している。
 よほど腕の立つ奴か、 あるいは大間抜けか どちらかだろうけど、 たぶん前者。
 今度は 死にそうな患者を連れてきておくれ。 これでは面白くない」

 通りすがりの部外者二人は、 あっけに取られた。
 いったいどういう医者なんだ。



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