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天州晴神霊記 第二章――11


「でもねえ。 そんな怪しすぎるお妃様をお貰いになって 大丈夫なのかしら。
 おかしなことが起こらないといいけど。 心配だわ」
 最後は、 ひそひそ声で不安を訴え始めた。

「奥さんが四人か。 一人でも大変そうなのに、 すごすぎる。
 やはり 陛下は只者ではない」
 志信は、 ブルッと身を震わせた。
 代々 女領主が治める地、 水輪繋で生まれ育った志信にしてみたら、
 四人もの奥さんと暮らすなど、 とてつもない難事業にしか思えない。
 まだまだ修行が足りないと、 深く感動を覚える志信であった。
「むむう、 ………… 頑張ろ」
 しかし、何を頑張るつもりなのだろうか。

「志信、 傘は返したんでしょ。 行くわよ」
 おとなしくなった志信を連れて 歩き出した斎布は、
 前回見そこなった 様々な店が立ち並ぶ一角に通りかかった。
「わああ、 あれ何屋さんだろう」
「ねえ、 ねえ、 あっち見て。 きれい!」
 行き当たりばったりに 目にする店先を覗きまわり、
「あのお店に入ってみよう」
 絵草子屋にやってきた。
 「夏の絶景弐十選」とか 「天州晴名所旧跡百景」とかの 刷り絵の風景画の他に、
 美人画、 役者絵などが 所狭しとばかりに並んでいる。
 二人は目を輝かせて見入った。

 店主が声をかける。
「いらっしゃいませ。 都見物でございますか」
 おのぼりさんだと一目で見抜いた。
「わあ、あのお姫様、 すごくきれいだ」
 歓声を上げて志信が指差した先には、 見事な姫君姿の美女を描いたものが飾ってあった。
 絵には「世美雄と樹里姫悲恋物語 ―― 春風桜乱」という文字も付いている。

「きれいでしょ。 いま人気絶頂の女形役者 桜乱の当り役です」
「えっ?  女形。 ということは こいつ男なのか。 びっくりだ」
 目を丸くしている志信に 店主は微笑んで、
「なんのなんの、 坊ちゃんも負けていませんよ。
 坊ちゃんがお姫様姿になったら、 もっときれいでしょうね」
 本気で言う。
 放っておいたら、 役者への転職を勧め、 就職斡旋までしそうな勢いだ。

「ええ――っ、 女の格好なんかしないぞ。
 こんなの、 動きにくそうじゃないか。 木登りもできない」
「そりゃあ、 樹里姫は木登りをしませんが……。
 でも 絶対に似合いますよ。 私の目に狂いはない」
 しつこく言う店主に、 志信は 心底嫌そうな顔をした。
 斎布は、 自分は 本物のお姫様なのになあと、 少し面白くない。



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