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天州晴神霊記 第二章――9


「どうですか。 ドキドキしませんか」
「何がです?」

「おかしいなあ。 危ない目に逢って助けてもらったら、 恋に落ちたりとかしませんか」
「はあ、 そうなんですか」
「そうなんですよ。
 そのはずなのですが、 近頃の女人は うまくいきませんねえ。 また失敗ですか」

 どうしよう。 分からない。
 斎布の頭の中が ぐるぐるになってきた時、
 パシャパシャと足音が聞こえて、 やっと志信が戻ってきた。
「霧呼様、 傘を借りてきたぞ。 あれっ、 なあにやってんだ?」
「……ああ、 変なのにからまれたところを、 この方に助けてもらったの」

 志信は、 背筋を伸ばして姿勢を正すと、 正面から若様に向き直った。
「ありがとうございます。
 お礼には改めて伺います。 お名前とお住まいを教えてください」
「いや、 いい。 単なる気まぐれだから」
 さらりと言い置いて、 路地を歩き去る。

「やはり 女は見た目が大事か。 つまらん」
 背中越しに聞こえた 面倒くさそうな小声の呟きに、 志信は首をかしげた。
「お肌の張りと色艶は俺に敵わないが、 あの人だって、 それなりにきれいじゃないか。
 変なの。 ほれ、 傘だ」

「うん。 あの人、 若様って呼ばれてた。 どこの若様なのかしら」
「都には、 若様なんか 掃いて捨てるほどいるみたいだぞ」
 各地の領地から 上洛してくることがある。
 さらに、 都には 数ある旧家や名家の若様もいるはずだが、
 掃いて捨てるほどとは 大げさじゃないのかと、 斎布は疑わしい目で志信を見た。

「特に この辺りは多いとか。
 遊郭とやらでは、 若い男は みな若様だと聞く。
 商人はお大尽様で、 武人は将軍様。
 大工は、 よっ、 大棟梁(だいとうりょう)!  といわれるらしい。
 何でか知らん、 遊郭とは不思議なところだ」
 聞くだけ無駄だった。 よく分からない。

「志信、 さっきのことは 屋敷の人たちには内緒よ」
「何でだ?」
「危ない目に遭ったとか、 通りすがりの人に助けてもらったとか言ったら、 みんな心配するわ。
 無事だったのだし、 余計な心配をかけることはない。 いいわね」
「分かった。 言わない」
 志信は やけに素直にうなずき、 斎布に傘を渡した。

「あらっ、 何これ」
 開いた傘には 『㊉おしゃれは十文字屋で』と大書してある。
「俺が使う分には 返さなくてもいいそうだ」
 なるほど良い宣伝になる。 都の商人は 侮れないのであった。

 その日を境に、 晴れる日が続くことになる。



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