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天州晴神霊記 第二章――8


 男は 新しくはないが 上品な柄の上物をまとっている。
 しかし、 片手を懐に隠したまま、
 狩衣の盤領(まるえり)も 随分横にずれた崩した着こなしが、 それを台無しにしている。
 下は 身軽な狩袴。
 烏帽子も着けず ぞろりと垂らした髪は、 肩口のあたりに 紅布(もみ)の切れ端で適当に括ってあるだけだ。
 世間に対して斜めに構えている感じがする。
 あまりまっとうな人間には見えない。
 こういう知り合いは いない。

「ちっ、 なんだてめえ。 横取りか」
 あばた面の男が睨む。
「斑の兄い、 ちょっと……」
 貧相な男が 袖口をつかんで、 耳打ちした。
「へえ、 あんたが山の若様かい」
 珍しいものを見るような、 遠慮のない斑の視線に、
 山の若様と呼ばれた男は、 表情を変えることなく応えた。
「横取りとは心外ですね。 私の連れですから」
「嘘くさいんだよ」

 斑は、 にやりと薄気味の悪い笑いを浮かべたが、
「管虫の先生がご執心らしいから、 そういうことにしときましょ。
 あの先生に へそを曲げられたら、 こっちも困る」
 斑は 忌々しそうに踵を返し、 飲み屋に引っ込んだ。

 それを見届けると、 若様は 斎布に向き直り、 にっこり微笑んだ。
「さっ、 行きましょうか」
「はん?  あのう、 助けていただいて ありがとうございます。
 でも 連れが来ますので、 ここで待っていないと」
 やっと少し 冷静さを取り戻して、 斎布は言った。

「近頃冷たいね」
 しかし、 台詞が理解不能。
「初対面ですけど」
 都では気をつけなくては と思った。
 次から次へと 変な人が湧いてくる。

「そうだったかな。
 ん、 でも気にしなくてもいいですよ。 はじめは誰でも初対面です」
 取り扱い方法が分からない。

「さあこちらへ。 相合傘も良いものです」
 物憂げに懐から引っ張り出した手で、 斎布の肩を引き寄せた。
 近くで見ると、 若様は 色白で睫毛が長く、 細く通った鼻筋と 薄情そうな薄い唇がなまめかしい。

 取り扱い説明書とか ないものだろうか。
 本当に 扱い方が分からない。
「どうですか。 ドキドキしませんか」



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