RSS

仙台の三奇人

 戦前の仙台に、 「三奇人」 と呼ばれる人たちが生息していたという。

  定山(ていざん)めっこ
  福ちゃん
  から傘婆(ばばあ)

 そう呼ばれていた彼等の本名を、 いったい どれだけの人が知っていただろうか。
 たぶん、 ほとんどは 知らなかったろう。 とその人は言った。
 斯く言うその人も、 知らなかったらしい。



 定山とは、 仙台の人間なら だれもが知っている。
 定山公、 伊達政宗の事だよ。
 ほら、 定山公は片目だったろう。
 定山めっこは片目だから、 そう呼ばれたらしい。

 俺は そいつのことはよう知らん。 いずれ まともな奴じゃなかったんだろうよ。
 福ちゃんは 八文銭だったし、 から傘婆は キ印だったしなあ。

 なに?  八文銭が分からないってか。
 昔 八文銭ていうゼニがあってなあ。 十文銭より大きかった。
 大きいくせに 二文足りない。
 頭の足りない奴を、 そういうんだ。 あんたみたいにね。

「めっこ」も分からんのか。 片目のことだ。
 あん?  標準語じゃないのか。 そうか、 仙台弁か。
 キ印くらいは分かるだろ。 狂ってるって云う意味だ。
 まったく、 話が進まんじゃないか。


 福ちゃんは 葬儀屋の下足番をしていた。 葬儀屋の福ちゃん と呼ぶ人間もいた。
 八文銭でも、 仕事をしていたんだが、
 その頃の仙台は、 今みたいに 人口が多くはなかったから、 葬儀屋だって暇なもんよ。
 たいていは 町中をウロウロしていたんだね。
 ふらふらと 好き勝手にうろついているうちに、
 どういうかげんか、 気に入った家があると 勝手に入るんだ。

 追い出されたろうって?  いいや、 大歓迎されたね。
 福ちゃんが来た家は、 飯を食わせ、 出来る限りのもてなしをしたもんさ。
 福ちゃんだからね。
 本名は知らんのよ。 でも、 福ちゃんだからね。

 福ちゃんが入った家は、 必ず良い事があるわけさ。
 だから、 欲を張った奴が、 あの手この手で 福ちゃんを自分の家に入れたがったが、
 福ちゃんは 気に入らないと絶対に入らなかった。
 見事なまでに 入らなかった。

 疑ってるね。 本当さ。
 俺の親戚に、 貧乏の子だくさんを絵にかいたようなのがあって、 そこんちに来た。
 そうしたら、 長男は帝大に合格した。
 娘が 玉の輿に乗った。
 帝大はわかるだろ?  帝国大学、 今の東大だな。
 トントン拍子に羽振りが良くなった。 本当だった。


 から傘婆は、 よく知ってる。
 失恋して狂ったとか、 子どもを亡くして狂ったとか噂されていた。
 晴れていても から傘をさしていて、 綺麗な物が大好きだった。
 不憫に思った人が、 綺麗な物をくれてやると、 大喜びで いつまでも身に付けた。
 着替えることを知らないから、 もらった着物を上から着る。
 一番下は ボロボロになって、 いつの間にか、 落ちて無くなる。

 俺の一番上の姉さんが、 ものすごく別嬪だったんだけど、 若くして死んじまった。
 病気じゃないよ。 つまんない事で、 ぽっくり逝った。
 柿が大好きだったんだが、 もらい物の柿を食って死んだ。
 渋柿を メチルでたる抜きしたんじゃないか と思っているんだが、 どうだろうな。
 いや、 ほんとに評判の美人だったんだ。
 俺には似てなかったろうって? 
 失礼な奴だな。 そういうことは 思っても言わないもんだ。

 ま、 その姉さんのお気に入りだった着物を、 おふくろが くれてやった訳さ。
 から傘婆は大喜びで、 一番上に着た。
 その着物が、 だんだん薄汚れていき、
 ボロボロになり、
 見えなくなるまで、 おふくろは から傘婆を見ていたものさ。

 から傘婆とは言うものの、 今思うと、 そんなに婆じゃなかったのかもしれないなあ。
 戦後、 ずいぶん経ってから見かけたが、
 全部が汚くて、 ただの きたない婆になってた。
 綺麗な着物をくれてやる人間は、 居なくなってたみたいだな。

 昔は、 そういう 奇人 もひっくるめて、 町が出来ていたんだがなあ。
 ずいぶんと こぎれいになっちまったもんだ。

          (聞き取りによるノンフィクションです)



【雑文と掌編の目次】へ【新聞記者は 人の話を聞かないからなあ】へ

トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
2125:奇人のいる町 by ササクレ on 2014/04/23 at 21:53:29 (コメント編集)

 これ、ノンフィクションなんですか。すごいですね。

 奇人も含めて、町って言う感じは、わたしはいいなって思います。

 奇人とかを追い出してしまうというよりは、色々な人がいるといいような気がするんですよねえ。

 もちろん、ある程度は、という事ですが。

2126:Re: 奇人のいる町 by しのぶもじずり on 2014/04/23 at 23:43:33 (コメント編集)

ササクレ様 こんにちは

昔はあちこちの町や村に、奇人変人が居たんじゃないでしょうか。
居場所があったんでしょうね。今は施設に入れちゃったりして見えなくなっている。
みんな忙しいですから、かまっていられないのでしょう。

▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア