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天州晴神霊記 第一章―13

 斎布はそれまで、 ほとんど わがままを言ったことがなかった。
 声高に主張することもなかったから、
 千勢は 領主の姫として生まれ育った事の立場を 承知していると思っていた。
 ありていに言えば、 扱いやすい子だった。
 だからこそ 帝の提案を受けたともいえる。

 千勢は 領主だが母親でもある。
 我が子に無理をさせたいわけではない。
 斎布なら大丈夫 と思ったのだ。

 急に変化を見せた娘に、 千勢は改めてじっくりと目をやった。
 まっすぐな視線を受けて、 斎布自信が自分に驚いていた。
 自分で口にしたように、 領主の姫が駆け落ちなどという無責任な行動は考えられない。
 人には それぞれの立場がある。
 いずれは 親や重臣たちが纏めた話にしたがって 結婚するものだと思っていた。

 ……それなのに……  読んでしまったのだ。

 草紙本として売り出された 『世美雄と樹里姫悲恋物語』は 都で大評判になり、 一世を風靡した。
 さらに各地へも広がり、 もはや 知らぬ者とてないほどの人気である。
 当然のことながら 星都に近い水輪繋でも流布し、 売れに売れた。
 面白いからと侍女に薦められるままに斎布も読み、 はまってしまった。
 うっかり涙を流しもした。

 ただの物語なら、 それだけのことだ。
 しかし、 そのとばっちりが 我が身に降りかかるとなると、
 心中複雑なものが湧き上がる。
 自分には、 こんなにドキドキワクワクした経験が かけらもない。
 それなのに 事件のせいで
『三年後は出戻り決定・夢も希望も無いなんちゃって結婚・無駄な行ったり来たり』
 をする羽目になるなんて、 なんだか 無性に腹が立つのであった。
 私だって ドキドキワクワクくらいしたい、 という気になろうというものだ。

 部屋の腰高窓からは、
 遠くに 連なってそびえる大小の山々と、
 その奥に 噴煙を上げる一際高い太郎岳の威容が見えた。

 妹背川を越えれば 地形が変わる。
 奇御岳の領地真赤土(まわに)は、 他国から『火の山の郷(くに)』と呼ばれていた。
 城も 山の高い位置に築かれた 豪壮な山城だ。
 妹背川のほとりまでいけば、 遥かに城の一部が見える。
 見えるのに、 全く想像がつかない。
 その上、 あんな山、 ワクワクもドキドキもしない。

「自分の目で確かめてきたら? 斎布、 星都に行きなさい」
 八箭が言って、 にっこり笑った。
 千勢が片眉を上げ、 問いかける視線を八箭に送る。
 八箭が視線を返す。

 斎布は、 都を見たことがなかった。 見たいと思った。
「都に行きます」
 きっぱりと答えた。

「橋との兼ね合いもある。
 発表するまでには しばらく間があるはずだ。
 それまで都の様子を見ておけば、 納得のいくこともあるだろう」
 千勢が言ったが、 斎布は違うことを目論んでいた。

 星都に行けば、 嫁に行かずにすむ方法が見つかるかもしれない。
 いや、 見つけてやろうと決意した。
 あまり猶予はなさそうだ。
 架橋工事が着工するまでが勝負だ。
 それまでに 結婚話をチャラにして、 出来れば 少しばかりドキドキワクワクも見つけよう。



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