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天州晴神霊記 第一章――11


「橋の件については、 遠からず 話が持ち上がるとは考えていましたけど、
 婿取りがくっついてくるとは 思いもよりませんでしたわ」
 おっとりとした口調で、 長姫 八箭(やや)は わずかに目を見開いた。

 鬼道門家の領主 千勢は、 星都で 橋の建設にかかわる手配をはじめ、
 あれやこれやの仕事を 留守居役の松毬(ちぢり)宗靭(むねゆき)に申しつけた後、
 領地の城に戻ってきていた。

 鬼道門の領地 水輪繋(みなわつぐ)は、
 他国から 『森と湖の郷(くに)』と呼ばれている。
 豊かな森林の湧き水が流れ込む大きな湖、 竜神湖があり、
 驚くほど透き通った水をたたえている。
 晴れた日に 湖面を覗けば、 かなり深いところまで見通すことができるが、
 年中 霧に包まれていることが多く、 神秘的な趣(おもむき)の湖だ。

 竜神湖に多く自生する水草を、 水輪繋では 霧呼草(きりこぐさ)という。
 およそ十年に一度、 小さな白い花を咲かせる 地味な植物だ。
 湖の霧は この草が呼び寄せるのだと 土地の者は信じている。
 竜神湖からあふれ出す水は、 流れを作って 妹背川に合流し、
 紫水川と名前を変えて 星都を潤しているのだ。
 水輪繋の城は、 霧に包まれた龍神湖のほとりにあった。

 千勢の部屋に二人の姫を呼び、 事の成り行きを説明したところだった。
「嫌です」
 声を上げたのは、 二の姫、斎布(ゆう)だった。
 言った本人が、 少し驚いたような顔になっている。

 一息、 気を取り直すや、 勢いで後を続けた。
「そんな事に 巻き込まれたくありません。
 橋を架けるなら さっさとかければいい。
 領地の中心から離れた場所で、 直接 街道から街道をつなぐとか、
 揉め事にならない工夫は いろいろ出来るはずです。
 何故 結婚までしなくちゃいけないのか、 さっぱりわからない。
 まだ お嫁になんか行きたくない」
 仏頂面で 駄々をこねて見せる。

「断ることは出来ぬ。 門多義と喜谷部のせいじゃ。
 長らく 穏やかな時勢が続いていただけに、 あの争いは国中に不安を撒き散らした。
 みな怯えておる。
 それゆえ、 ここに来て 鬼道門と奇御岳の長年の不仲をも気にし始めた。
 他国の人間は、 この地の様子など 詳しくは知らぬ。
 橋が無ければ無いで、 架ければ架けたで、 ただいたずらに不安を抱く」

「それでも一組でいいじゃない。二組も縁組することはないわ」
 斎布は必死に抵抗した。
「奇御岳が、 息子を預けるだけでは不満らしい。 度量の小さい男よ」
 千勢が言う。

「あら母上、 それなら我が家が、 度量の大きいところを見せてはいかが」
 八箭がのんびりと反論する。
 とても反論しているようには見えないが、 内容は 痛烈な反論以外の何物でもない。

「そうそう、 一組でいいはずです」
 斎布が尻馬に乗った。
「そうすれば、 斎布がお嫁に行くだけで済みますわ。
 役立たずを預かる必要はありません」

「ええーっ!  姉上、 ひどい」



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