RSS

天州晴神霊記 第一章――10


「陛下。 この書類に御璽(ぎょじ)をください」
「よしきた。 そーれ」
 ぺたん。 帝は景気良くハンコを押した。
 相変わらず いいかげんにしか見えない陽気な態度で 政務をこなしている。

「奇御岳と鬼道門の当主たちから 報告が来たようですね」
 御璽を貰いにきた官吏が下がるのを待って、 鹿杖が話しかけた。
 両家と密談を交わしてから 一月近くになる。

「来た来た。
 橋を架ける場所の選定やら 橋大工探しやらも始まり、 いよいよ準備に取り掛かったらしい。
 話が決まれば、 やることは素早い。 さすがだな」
 花婿と花嫁の為の別邸も、 抜かりなく同時進行で進んでいることだろう。

「さしたる揉め事も無く、 ほっといたしました」
「いくら仲が悪くても、 国事に関わるとなれば 馬鹿な真似をする両家ではない。
 この分だとうまくいきそうだ。 吉日を選んで発表しなくてはな」

「婚姻の知らせも、 広く行き渡らせなくてはなりません」
「余の仲立ちじゃから、 婚礼の儀は故郷(くにもと)ではなく、
 この星都で 大々的にやってもらおうかと思っておる。
 北宸殿とか使って ドカーンと」
 帝は 嬉しそうに両手を広げる。

「北宸殿は やりすぎです。
 あそこは 宮中の重要な儀式を執り行う場所ですから」
 鹿杖の冷静な言葉に、 帝は残念そうに手を引っ込めた。
「ん~、 駄目か。 場所は任せる。
 だが、 大々的にしなくては意味が半減する。
 そうだ、 各地の領主も招待しよう。 無理なら代理でもいいからさあ。
 そこで、 余がかっこよく 感動的な詔(みことのり)を発するのだ。
 わくわくするなあ」

「わあ、 かっこよくですか。 僕も見たいですう」
 十三彦が 目を輝かせて手を叩く。
「そうか、 見たいか。 よーし、 頑張るもんね」
 再び言っておくが、 今上の帝 四十七歳である。

 いつものこととはいえ、 鹿杖のぼんやりした目が うつろになる。
「頑張らなくても、 陛下は いつでもカッコイイです。
 それより 他にもするべきことが山盛りですから、 夜・露・死・苦」
 気を取り直した鹿杖が 念を押した。
 宮中での自分の仕事が、 時々分からなくなりそうになる。
 真面目だったはずなのに、 帝に毒されている気がする鹿杖だった。

「あっ陛下、 そういえば、 左大臣様から使いが来ました。
 なんでも 『御神に愛しまれた娘』を見つけたとか」
「ええーっ、 あのジジイ、 そういうことになると まめに動き出すなあ。
 いつもは たいした仕事をしないくせに。
 でも、 何故左大臣が知っているのだ」
 いつでもカッコイイと言われて、 簡単に喜んでいた帝が、 あきれたように口を開く。
「さあ、 そこまでは」
「余計なことをしなくていいのになあ」

「都のはずれに 祖父母とつつましく暮らしている旧家の姫で、
 阿古屋(あこや)という名だとか。
 頼まれて占いをすると、 眞(まこと)に よく当たると評判だそうです。
 大神殿のお告げと同じことを 先に言い出すことも度々あるとか。
 なかなか見目良い娘で、 年は十八、 番茶も出花。
 今度の火伏せ神事に 大神殿に召しだして、
 陛下のお世話をさせようと図っているらしゅうございます」

「いろいろと画策しておるのだな。 熱心なことだ」
 帝は 首をかしげた。
 隣の十三彦も 付き合って、 同じように首を傾ける。
 鹿杖も真似してみたが、 二人が何を考えているのか、 さっぱり見当が付かなかった。



戻る★★★次へ


トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア