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天州晴神霊記 第一章――9


「待ちや」
 もうすぐ門だというところまで来て、 またもや呼び止められる。
 氷のように冷ややかな美貌に、 思わず後退りしてしまった。

 身なりと態度から、 女官にも召使いにも見えないが、
 場所柄を考えれば 『偉い人』に間違いない。
 後ろに 豪華な輿も控えている。
 思い当たるのは、 どこかの女領主か。

「先ほど盗み聞きをしていた輩だな。 気配が同じだ」
 だから、 何でばれるんだよ。
「ひえーっ。 ま、 迷って通りかかっただけです。
 『ごくつぶしの浮気者』のことなんか 知りませんってば」

 突き刺すような鋭い視線を避けたくて、 袖で顔を覆い、 はたと思い至った。
 この迫力、 氷のようなこの美貌、 噂に聞く鬼道門の女領主かも。
 輿を見れば、 水流をかたどったといわれる渦巻き紋が付いている。
 やっぱりそうだ。

「やはり聞いておったか。 近う寄れ」
 怖いのに、 命令されると素直に従ってしまうのは、 下っ端の性(さが)。
 恐る恐る近づくと、 さらに耳もとに口を寄せられ、 硬直してしまう。

 「あれは戯言(ざれごと)じゃ。 真に受けるでない。 本気にされては迷惑だ。
 初代帝の命で、 互いに近づかぬことになっておる。
 交われば 国が不幸に見舞われることになるらしい。
 これは秘事じゃ。 みだりに口外すれば、 おまえも呪われるぞ。
 地獄の苦しみを味わいたくなければ、 口をつぐんでいることじゃ」

「ひ――――っ」
 聞きたくなかった と心底思いながら、 見習い神官は、 脱兎の如く遁走した。

「ふん、 あれだけ脅せば しゃべるまい」
 迷ったと言っていたが、 あんな奥殿まで よくも入り込んだものだ。
 方向音痴にも程がある。 まったくもって迷惑だ。
 千勢は 鼻を鳴らした。



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