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天州晴神霊記 第一章――6


 赫衛は 落ち着いて答えた。
 紫水川は 少しさかのぼれば、 妹背川と名を変える。
 地歌(じうた)の一節にも歌われて、 その名も広く知られていた。
 
   間を流れる 妹背川
   日毎夜毎に 願っても
   想い届かぬ 暴れ川

 上流にありながら 四季を通して豊かな水量と広い川幅を持ち、
 しかも 激流がほとばしる流れは、 よほど水練に達者なものにさえ 泳いで渡ることは難しく、
 船を操れる者も少ない。
 両家のいきさつから 一本の橋も架けられてはいないところから、
 行き来は簡単ではなかった。

「そのことも 問題になってきておる。
 海辺の一件で、 このところ世情が不安定にはなってはいるが、
 近年 おおむね暮らしも豊かになり、 街道の整備も進んで、 人の往来が増えている。
 妹背川に一本の橋もないのは如何なものか という話が出た。
 陳情も来ておる。
 両家に差しさわりのない場所に 一本でよいのじゃ、
 橋があれば 北の往来が随分と楽になる。
 なるべく早く 橋が欲しい。
 だが、 橋ができれば両家の不和が さらに不安を煽ることになる」

 時が移れば、 人の流れが変わる。
 星都ができた時代には 問題にならなかったことが、 国の発展の妨げになりつつあった。

「そこで、 仲良くしろということですか」
「時期が時期だけに、 それを誰の目にも分かる形で、 示さねばならぬ」

 二人が押し黙って考えるのを待って、 帝は再び口を開いた。
「両家に頼みたい。
 一つは橋。
 もう一つは、 余の仲立ちで 両家に縁組をしてもらいたいのじゃ。
 実質は問わぬ。 形ばかりでよい。
 両家が親しくしている体(てい)に見えればよいのじゃ。
 どうしても嫌であれば、 期限を設けてもいい。
 三年もすれば 落ち着くであろう。 さすればこっそりと離縁してくれてかまわぬ。
 両家をどうこうしようという話ではない。 政治に一役買って欲しい という話なのだ」

 千勢が 先に口を開いた。
「そういうことであれば。
 種馬としては不服ですが、 居候を三年預かるくらいはかまいません」

「ちょっと待て。 何が種馬だ。
 何故、 我が家から婿を出すことになるのだ。
 うちが できの悪い姫を預かろう」
 初めて目を合わせて睨み合う。
 怒鳴り合いではあるが、 五百年ぶりに 二家の領主が直接言葉を交わした 歴史的瞬間であった。
 なかなかの迫力だ。

 そんなことには一切かまわず、
 帝は一人、 大いに嬉しそうにニコニコ笑った。
「良かった、 良かった。 二人とも分かってくれて嬉しい。
 段取りは、 ゆっくり詰めるとして、 なるべく早く発表しよう。
 これにて一件落着」




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