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天州晴神霊記第一章――5


 以前、 朝賀(ちょうが)のため 都を訪れた二郎三郎を垣間見た女たちが、
 老いも若きも 次々失神する という騒ぎが起こっていた。

 その美しさは常識はずれ とたちまち評判になり、
 都にある奇御岳屋敷に、 一目見ようとする人々が男女にかまわず押し寄せ、
 黒山の人だかりで大混乱になった。
 噂は噂を呼び、 今や天州晴一の有名な男 と言っても過言ではない。

「余も東宮も、 国中の役者たちもわりを食った。
 冗談みたいに美しい」
「それならご安心ください。 二郎三郎は 生涯不犯(ふぼん)の道に身を投じました。
 今後、 人前に出ることはございません」

「なにっ、 一生女人に触れぬというのか。 もったいない。
 あれなら よりどりみどりだろうに。 何故(なにゆえ)じゃ」
「当家の事情でございます」
「しかし、 他の子どもらも 充分に美しいと聞くがどうじゃ」
「そこそこには」
 控えめに言う赫衛が、 五人の子持ちとは思えぬほど 若々しく美しい。
 奇御岳家の『そこそこ』が 一般の『そこそこ』と同じであるはずがない。

 帝は 隣に座る美女に目をやった。
 悩ましげな表情が一瞬よぎる。
 鬼道門千勢も 四人の子持ちには見えなかった。

 鬼道門家の主には 女子しか生まれない。
 家を継がない姫には、 ほんのたまに男子が生まれるが、
 代々主の座には、 婿を迎えて 女領主が就いていた。

「そなたの姫は いくつになった」
「長女八箭(やや)十六歳、 次女斎布(ゆう)十四歳、
 三女美以(みい)十歳、 四女阿湖(あこ)八歳でございます」

 八箭もまた、 朝廷を大混乱に陥れていた。
 同じ日に朝賀に来た貴族も官吏も、 しばらく使い物にならなくなった。
 千勢は 凛としたきつい感じのする美女だが、
 八箭は ほんわりと柔らかな、 見た者を蕩けさせるような美しさを持っている。
 『天女を見た』とうわ言のように呟いて、 人事不省に陥る男が続出した。

 帝は 后妃や女官たちを心配したが、 そちらは欝(うつ)にもならず、 案外平気だった。
 あそこまで美しいと、 もはや我が身に引き比べるのも馬鹿馬鹿しい。
 落ち込むことさえ無駄だ と悟ったらしい。

「罪作りな姫君は 元気か」
「はい、 すこぶる」
「う~む、 考えれば考えるほど、 これまで 何も無かったのが不思議じゃ。
 民の不安が身にしみて分かる」

「しかしながら 両家に行き来はなく、 出会うことはありません。
 間には 妹背川(いもせがわ)が横たわっております」




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