天州晴神霊記 第一章――2
天州晴(あまつばる)中興の祖といわれる 佐師布津帝が開いた都は、 都大路が五芒星に走っている。
一筆書きで描く星の形だ。
中央は 神域になっており、 大神殿が都と国を守る形になっていた。
北に位置する三角形には 大内裏があり、
紫水(しすい)川から引いた 清らかな水をたたえた、 美しい掘割が巡っている。
悪霊や もののけを祓(はら)う 聖なる都、 星都。
都を定めるに当たり、
初代の御世(みよ)から続いている 奇御岳家と鬼道門家が 隣り合って治める領地の南、
名川(めいせん)紫水川が流れる地を絶対条件にして 選ばれたとされていることは、 広く知られている。
両家とも 初代帝が天州晴を建国する以前から 今の地を治めており、
帝といえども 領地換えには出来ない事情があった。
危険を都から遠ざけると言うだけなら、
両家から離れた場所に遷都(せんと)する という手がまったく無いわけではないが、
長い時をかけ、 膨大な資金と労力を注がれた星都を捨てるなどと、
そんなもったいないことは、 考えてみるまでもなかった。
しかも、 それでは仲の悪い両家の領地は 隣り合ったままである。
何の解決にもならない。
「では、 放っておくか」
「佐師布津帝が、 都の北面の守りを預けた両家ですから、
放っておいても 海辺のようにはならないとは思いますが、 いかんせん衝撃が大きすぎました。
それなりに繁栄していた郷(くに)が、 いまや見る影もなくボロボロです。
幸いと言ってはなんですが、 はずれの地方でしたから この程度で済んだものの、
もしも 星都の近くであれば、 天州晴ごとどうなることかと、 民が恐れおののいております。
駆け落ちの挙句(あげく)に死んでしまった二人とは違い、 奇御岳家も鬼道門家も 代々美形揃い。
おまけに 間の悪いことに、 両家の若君と姫君たちが そろそろお年頃。
考えれば考えるほど 不安になるのも分かる気がします」
「はて、 世美雄と樹里は 美男美女だという噂を聞いたが」
帝が不思議そうな顔をする。
「直接知る者の言(げん)によれば、 そうでもなかったと。
二つの郷を巻き込み、 滅亡に追い込んだ張本人たちの悲恋ですから、
そうであって欲しい願いが 噂に表れたのでしょう」
「なるほど。 不細工(ぶさいく)では、 話の盛り上がりに欠ける」
帝は ちょっと残念そうな顔をして、 続けた。
「じゃあ、 奇御岳と鬼道門には 仲良くしてもらおう。
仲良しこよしになれば、 もう安心」
考え無しの発言にあきれて、 鹿杖は そっとため息をつく。
「どうやって」
「両家の当主を呼んで、 相談してみよう。 十三彦(じゅうさんひこ)」
「は~い」
「おお、 かわいい返事じゃ。 文を書くから用意しなさい」
侍者を呼んだ。
今上(きんじょう)の帝、 丈夫が取り柄の この年四十七歳であった。
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