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泣きわめく子ども  3

 小学校の敷地には 大きな段差があった。
 山を切り崩して建てたのだろう。
 真新しい校舎が二棟、 段差を挟んで建っている。

 上の段にある 小さめの校舎には、 一年生から三年生までの教室がある。
 下の段の 大きめな校舎は、 四年生から六年生までの教室になっている。
 共に三階建で、 小さい校舎の一階と 大きい校舎の二階が 渡り廊下でつながれていた。

 いさ子は、 大きい校舎に行ったことが、 まだほとんどない。
 渡り廊下の先には 上級生が山ほどいるはずだった。
 しかし、 顔を知っているのは、 同じ分団の四人だけである。
 渡り廊下の先は、 見知らぬ別世界に思えた。

 三年生は 五組まである。
 しかも、 田舎の小学校より一クラスの人数が多い。 五十人近く居る。
 同学年でも、 クラスが違えば赤の他人状態だ。
 四年生は 六組まであるらしい。
 五年生はもっと多いと聞いている。 七組以上あるのだろう。
 習いたての掛け算で計算するまでも無く、 大勢だ。
 そんな大勢の中から、 誰に、 どうやって話しかければいいのか 見当もつかない。


 校舎の裏に行けば、 さして高くない崖がある。
 粘土質の土がむき出しになった崖に沿って進めば、
 高さはみるまに低くなり、 低木と雑草におおわれた斜面になった。
 いさ子は 斜面上方に、 何本かの低木に囲まれて 小さく開いた場所を見つけた。
 枯れ枝や折り取った枝で天井を作れば、 隠れ家みたいになった。

 放課後に 『隠れ家』に行って ぼんやりとして過ごすと、 落ち着く。
 時間の流れが、 ゆっくりになる気がした。
 思う存分に ぼうっとできる。

 呑気な声が聞こえた気がした。
「ふわふわで分厚いな。 大丈夫だ。 おまえの莢(さや)は 丈夫にできている」
「ふわふわ?」
 何だろうと見回せば、 小柄なお爺さんが遠ざかって行く。
 気のせいかもしれない。 現実味の無い出来事だった。


 教科書が無いまま、 幾日が過ぎたのだろう、
 遠慮しいしい 隣の席の子に見せてもらいながら授業を受けた。
 だんだんに 教科書が無くても、 先生の話を聞き、 黒板を見ていれば、
 なんとかなりそうな気がしてきた。
 教科書が欲しい という気持ちが薄れてくる。
 元々、 どうしても欲しいというものでもない。
 まっいっか、 という気持ちになってしまった。



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