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泣きわめく子ども  2

 いさ子が登校する朝になっても、 教科書は手に入っていなかった。
 向こう三軒両隣に、 小学生を持つ家庭は無い。
 そういう繋がりも無いようだった。
 まだ、 近所づきあいを広げる余裕はない。
 下の子を入れる幼稚園も探さなくてはならない。
 田舎には、 幼稚園なんかはなから無かったから、 ヒロには勝手が分からない。

「いさ子、 分団の上級生に頼んで、 教科書を譲ってもらいなさい」
 新興住宅地には 様々な人間が集まってきていた。
 通学路には 交通量が増え始めた広い道路もある。
 住所の近い子どもたちが グループになって、 分団登校が行われていた。
 のろのろと支度をしている いさ子をせかしながら、 言い付けた。
「分かったわね」
「ん?  うん」


 頼りない返事を残して、 いさ子は家を出た。
 集合場所の小公園に着くと、
「おー、 来た来た。 全員そろったから行くぞ」
 リーダーの男の子は、 陽気に出発の合図をした。
 自己紹介をする間もなく、 いさ子は なし崩しに分団に取りこまれた。

 校門につけば、
「じゃあね」と、 元気な声を残して、 あっという間に、 それぞれの教室に散っていった。
 初日は、 転校生ならおなじみの儀式で終わった。
 物珍しさから クラスメイト達に取り囲まれ、 一日中インタビューを受ける。

 二日目も 三日目も、 いさ子は 集合場所に最後に着くことになった。
 ろくに話もしないうちに出発である。

 数日後、 なんとか早めに家を出ようと頑張って、
 小公園につけば、 六年生のリーダーと 仲の良い男の子の二人がいた。

「三年生の教科書があったら 欲しいんだけど……」
 やっと言えた。

「ええーっ、 あるかなあ。 捨てたかも。
 あってもやれない。
 俺の教科書は 落書きだらけだから、 恥ずかしくて見せられない。 お前は?」
 リーダーが、 もう一人の子に聞いた。
「おれも。 たぶん無いと思うぞ。 捨てただろ。 たぶん」

 そこに 女の子の上級生が来た。
「三年生の教科書が欲しいんだって。 おまえやれよ」
「無いわよ。 近所に貧乏な子がいて、 あげちゃったから」
 子どもは 教科書の値段なんか気にしない。
 だから 平気で落書きをする。
 しかし、 小さく書いてある価格を見れば、 決して安くは無い。

 もう一人、 女の子が来た。
「うちは、 弟が使ってる」
 貧しい家では、 兄弟のお下がりを使ったり、 近所にもらったりもする。

 そうしている間に 他の子たちも集まったが、
 話に加わらず黙っているところをみると、 同学年か下級生なのだろう。
 分団の七人は 役に立たなかった。



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