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蜻蛉の願いはキンキラキン 第十章――10


 部屋に戻っても、 クネクネとブツブツは止まらない。
「そうだ!  旅の安全は 宝珠にお願いしてあるんだった。
 出たとこ勝負でも何とかならないかなあ」
「怪我はしないかもしれない。
 でも、 勝てるとは限らない。
 そもそも、 旅の安全と 自分から吹っかけた決闘と 同じには出来ないだろう。
 別物だと思うぞ」
 そのくらいのことは、 桜は すでに検討済みだった。

「ふにゃ」と 妙な音を出して、 蜻蛉は撃沈した。
 クネクネしたまま寝入ってしまい、 静かに夜は更けていった。


 翌朝、 蜻蛉が目覚めたのは まだ薄暗い夜明けだった。
 桜は 大口を開けて鼾をかいている。
 お肌のために熟睡中だ。
 そおっと抜け出して 外に出た。
 家の周りを ぽてぽてと歩き出す。
 時折立ち止まっては、 髪の毛をかきむしったり、 なにやらブチブチつぶやいたりと、
 爽やかな朝の光景には 全然似つかわしくない。

「ほい、 おはよう。 クネクネの娘さん」
 主に出くわした。 農家の朝は早い。

 蜻蛉に 天啓が下った。

「ほい、 おっはよーうございまーす!!!」

「ほい、 今朝は えらく元気じゃね。
 ほい、 よかった よかった」
 言っている本人にも、 蜻蛉が突然変化した理由は 理解不能だったが、
 大人の社交辞令で 適当に笑ってみせた。

 それに返した蜻蛉の笑顔は、 昇り始めた太陽にも勝つかと思われた。
 主をやり過ごして、 柔軟体操をし、 家のまわりを 何周も軽く駆け足。
 クネクネから脱却した。



 太陽が、 赤い草原の中天にさしかかった。
 ギラギラと降り注ぐ光を受けて、 紅焔草が炎の色を撒き散らす。
 日差しの暑さのせいか、 緊張のせいなのか、 星白の額に汗が滲む。
 星白と一郎は 先に来て待っていた。
 見渡す草原に、 他の人影は見えない。
「来ませんね」
 星白が、 少しほっとしたように言う。
「うむ、 諦めて逃げたかな」

 星白は それで良かった。
 むしろ その方が良かった。
 興奮のあまり 決闘を受けてたつ破目になったが、 蜻蛉と闘いたいわけではない。
 蜻蛉の世界征服を阻止できれば それでいい。
 世界は 地道に救っていけるかもしれない と思い始めていた。

 自分だって 頑張れば何かの役に立つ。
 今までは 頑張って世界を救おう などと思いもしなかったが、
 ちっぽけな自分が 大胆な望みを持ったことに、 少しは意味があるのかもしれない。
 多くの人々が、 小さなことからこつこつと変えていけば、 きっと 世界は幸せに近づく。
 卵形宝珠の奇跡に頼るよりも、 ずっと良い気がしてきていた。

 旅に出て 本当によかった。
 静かな丘にたたずんで、 星白は しみじみと感慨にふけった。



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