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蜻蛉の願いはキンキラキン 第九章――2



「ふん、 でも初めて船に乗るなら、
 出来るだけ大きいほうが 揺れも少なくて いいかもしれないな」
 潮の満ち引きと風の様子から、
 出航は 夕方になると言われたが、 蜻蛉ははしゃいでしまい、
 停泊しているうちから乗り込んで、 甲板から手を振ったり 海に叫んだりしていた。
「海の馬鹿やろう!」
 青春である。

 そのせいで、
 出航する頃には 真っ青な顔色をした、 見事な船酔い患者が出来上がることになった。
 船底の三等船室に転がり、 時折「うえっ」と 口元を押さえて ふらふら状態だ。
 すっかり 周りから嫌な顔をされている。
 はた迷惑この上ない。

 船底で のた打ち回っている蜻蛉は知らず、
 まずは〈ランランかもめ丸〉が港を出て行った。
 夕陽に背を向け、 よたよた進んで 見えなくなる。

 次いで 〈田板十八号〉が巨体を滑らかに滑らせて 桟橋を離れた。
 沖に出ると方向を変え、
 さすが最新式の速度で 波を蹴立てて海上を走る。
 ゆく手の水平線には、 真っ赤な夕陽が沈もうとしていた。

 三等船室では、 ついに耐え切れなくなった蜻蛉が、
 噴水のように 口から吐しゃ物を一気に吹き上げていた。
 臭いと嗚咽に誘われたのか、
 他の乗客の何人かがが 連鎖反応のように次々と後に続く。
 閉鎖された船室に 悪臭が充満し、
 船酔いには自信のあった者さえ、 生唾を飲み込んで 鼻と口を押さえる事態になった。

「うわああ、 堪んねえ。
 開けられる所を全部開けろ!  臭いを追い出せ!」
 しかし、 何しろ船底である。
 梯子を上った出入り口の上げ蓋以外に、 開けられる場所は無い。
 それでも 一人が取り付いて開け、
 他の数人が 船室に備えてある大団扇を見つけて、
 臭いを出そうと 空気をかき混ぜた。

 そんな物が用意してあるということは、 船主にとっては 想定の範囲内なのだろう。
 耐え切れずに 甲板に飛び出していった者も何人かいる。

 桜は 蜻蛉の撒き散らしたものを片付けたが、
 きっかけになった蜻蛉の醜態をわびるつもりで、 他の人の後始末も手伝った。
 ついでに、 酔い止めのまじないを掛けてゆく。

「しまった。 はじめから そうしておけば良かった」
 少々悔やみながら……。


 「おーい、 水平線に沈む夕陽がきれいだぞー、 見に来いよー」
  甲板の方から 陽気な声がする。



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