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蜻蛉の願いはキンキラキン 第九章 田板ニック……もとい、十八号――1



「うわあ、 海だ。 港だ。 船だあ」
 蜻蛉は、 初体験に雄叫びを上げた。
「海は 広くて大きいとは聞いていたけど、 こんだけでかいとは想像以上だ。 ぶっ飛んだ。
 いいなあ。 爽快な気分だ」

 港町の小高い高台から 眼下に港を眺め、 蜻蛉は両手を広げて深呼吸をした。

 港には 大小の船が係留され、 緩やかに浮き沈みを繰り返していた。
 雨の季節が終わって、 はるばる遠路を来た二人の目の前には、
 青々と晴れ渡った空に海鳥が飛んで、 次々と寄せくる白い波頭と遊んでいる。
 はるかな水平線には、 夏の到来を告げる 綿のように真っ白い雲が湧き上がっている。
 旅の埃で すっかりぱさついた蜻蛉の髪を、 潮風が吹き散らして通り過ぎた。

「う~ん、 つくづく世界は広い」
 景色にうっとりしている蜻蛉の隣には、
 全身黒ずくめ、 顔をすっぽりと頭巾で覆った桜が、
 怪しい魔法使いのばあさん姿に戻って たたずんでいた。
 無論 お肌を守るためである。

「おお!  あのでかい船、 格好良いなあ」
 蜻蛉が 一艘の客船を指差して、 感嘆の声をあげた時である。
 後から 声を掛けた者がいた。
「ありゃ 今話題の 最新式豪華客船〈田板(たいた)十八号〉だ。 すごいだろ」
 貧相な親父である。

「小父さん、 だあれ?」
「通りすがりの、 船が大好き小父さんだ。 船のことなら 何でも聞いてくれて良いぞ」

「へえ、 あの豪華客船はどこまで行くの?」
「〈田板十八号〉だ。 蜻蛉羽(あきつば)の 和平薙(やわなぎ)港まで行くらしい」
「すごいなあ。 十八号ってことは、 あんなのがまだ十七艘もあるんだ」
「いや、 あれ一艘しかないな。
 他国にさえもその名が鳴り響く有名な船大工、 クリア共和国のニックが考案した 最新式の新造船だ。
 はじめは 〈田板ニック号〉という名前にしようとしたらしいが、
 姓名判断の占い師に見てもらったら、 その名前だと沈没する。
 絶対確実に沈む、 と妙な太鼓判を押されたので 変えたそうだ。
 二×九=十八、 ということで、 ニック十八号……」

「………………何のこっちゃ。 ちょっと違う気がする。 ニク十八じゃないのか」
「……っま、 そういうことで。 船賃は けっこう高いぞ」

 何はともあれ、 蜻蛉羽まで行く船なら ちょうどいい。
 二人は丘を降りて、 港の乗船券売り場に急いだ。

「蜻蛉羽まではいくらだ?  えーと〈田板十八号〉だっけ、 あの船だ」
 通りすがりの船大好き小父さんが言ったとおり、 船賃は高かった。

「うーん、 二人分だと、 三等乗船券がぎりぎりだな。
 馬車代金で使っちゃったし、 途中で使いすぎたから」
 蜻蛉の呟きを聞いた係りの人が、
「蜻蛉羽まで行くだけなら、 あの〈ランランかもめ丸〉がお奨めですけど。
 料金が安いし、 それに……」
 言いながら指差したのは、 かなり古そうなボロ船。
〈田板十八号〉より大分小さい。

「いや、 〈田板十八号〉が良い!  三等二枚!」
 係りの説明を途中でさえぎって、 蜻蛉が勢いよく言い放った。

「蜻蛉、 おまえ贅沢癖が付いたんじゃないのか」
 桜が、 あきれたように言う。
「目が肥えたと言ってくれ」



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