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犬派のねこまんま その24     byねこじゃらし

<ノリちゃん>


 豪雪地帯の次に住んだのは 都会の住宅地 だった。
 冬は、 雪が降らない分空っ風が寒く、 夏は うだるように暑い。

 吾輩が小学四年生の、 ある日曜日のことだった。

 一家そろって 街まで買い物に行き、 自宅に帰りついて 窓を開け放った時である。
 小鳥 が飛び込んできた。
「窓とドアを閉めろ!」
 父が叫び、 反射的に 母と姉妹は慌てて従った。
 父がうれしそうに捕まえてみれば、 小鳥は 文鳥 だった。
 さて、 捕まえてはみたものの、 我が家には 鳥籠 なんか無い。

「しのぶもじずり、
 ○○さんのとこで、 以前飼っていた鳥の籠が空いていると言ってたから、
 あんた 行って借りてきなさい」
 母が命じた。

 すぐ近所に、 吾輩のクラスメイトの家があった。
 あまり仲良くしている子ではなかったから、
 鳥を飼っていたことがあるとは、 吾輩も知らなかった。
 井戸端会議の成果なのだろう。

 吾輩は すっ飛んで借りにいった。
「もう飼う気はないから、 あげるわよ」
 クラスメイトのお母さんが、 気前よく鳥籠をくれた。
 くれると言うものは 遠慮なくもらう、
 というのが、 この頃からの 我が人生の指針 であったから、
 さっさと持って帰った。
 こうして 文鳥がペットになった。
 丸儲けである。

 さて、 次の日曜日の のどかなひと時である。
 鳥籠に入った文鳥を眺めていた父が、
「鳥は空を飛べるのに、 こんな狭い籠に入れとくなんて、 可哀そうだなあ」
 切なげに、 青い空 を眺めたのであった。
 自分で捕まえたくせに、 何言ってんだかである。
 人間は矛盾だらけだ。

 そうして、 言ったのである。
「窓とドアを閉めろ」

 仮にも 一家の長の命令である。
 いぶかりながらも従った。
「あっちがまだ開いてる。 ちゃんと閉めろ」
 確認した後、 鳥籠の扉を開けたのだった。

 少し戸惑った後、 文鳥は飛んで、 食器棚の上に止まった。
 ちょんちょんと様子をうかがい、
 棚の上、 テレビの上、 と飛び移る度に羽ばたいた。
 閉め切った部屋の中で聞く 小鳥の羽ばたきは、 予想以上に 力強い音 を立てた。
 父は満足げに笑い、 リビングは鳥籠になった。

 飛んでいるのは 空ではない。

 しかし、 そんな行為のおかげで、 文鳥が人懐っこい事を発見した。
 手を差し出せば、 乗るのである。 手乗り文鳥のしつけを受けていたらしい。
 丸儲けである。
 とにかく 手を差し出せば、 誰の手にでも見境なく乗って来ることから、
 いつの間にか「ノリちゃん」と呼ぶようになった。
 これほどストレートに芸の無いネーミングは、 我が家のペット史上この子だけである。

 はじめのうちこそ いちいち窓とドアを閉めていたが、
 そのうち、 開けっぱなしでも放すようになり、
 時には、 鳥籠のドビラさえ開けっぱなしにすることもあった。
 そんなときは、 自分から籠の中にはいり、 餌を食べ、 水を飲んではまた出てくる。

 問題は糞(ふん)だった。
 糞をする度 大騒ぎで拭いていたのだが、 いつのまにか、 籠の外では あまりしなくなっていった気がする。
 気にならなくなっていた。
 朝起きたら、 学校から帰ってすぐ、 休みだから、 留守番で退屈だから といっては、
 しばしば籠から出していたが、 糞で騒ぐことがあまりなくなっていたのである。



 そんなある日、 父が会社の部下を連れてきた。
 独り暮らしで、 ろくなものを食べていないだろうから と家庭料理をふるまったのである。

 そこで、 よせばいいのに 自慢のノリちゃん を籠から出して見せた。
 鳥が苦手な様子だった。
 飼ったことが無ければ 普通かもしれない。
 ノリちゃんは お構いなしに彼の肩に乗る。
 いきなり 顔の近くである。
 少しひきつっていたが、 人懐っこい文鳥が自慢の父は 得意である。

 そして、やっちゃったのだ。
 彼のスーツをしちゃったのである。

 さすがに 父は慌てた。
 母も、 速攻で 彼の上着をはぎ取り、 シミ抜きにいそしんだ。

 父は、 クリーニング代を多めに(新しいスーツがかえるほどだったらしい)渡すなどして、
 事後処理をこなしたようだったが、
 彼は 二度と 我が家には現れなかった。 合掌。



 そうしてある時、 吾輩は気が付いたのだった。
 朝ごはんの時、 茶碗を持つ吾輩の手にとまり、 ご飯粒をくすねるまでになったノリちゃんは、
 家の中を 縦横無尽に飛びまわってはいたが、 空を飛んでいない ことに。

 もう逃げないだろう、 という根拠の薄い確信を 突如抱いてしまった 小学四年生の吾輩は、
 ノリちゃんを肩に乗せたまま、 庭に出たのであった。

 青空がいっぱいに広がる 晴れた気持ちの良い日だった。

 庭を十歩も歩かないうちに、 ノリちゃんは飛び立った。





 空へではなく、 我が家の 家の中へと一直線に



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コメント
1020: by lime on 2013/01/09 at 08:24:37 (コメント編集)

手乗り文鳥を、手乗りにしようと思えば、ヒナから頑張って育てなければならないので、やっぱりこれは、丸儲けなのでしょうねw
そう、鳥って可愛いけど、トイレの躾は、難しいですもんね。
あれをびしっと躾けられたら、うれしいんだけど。

しかし、外に出してもちゃんと帰ってくる文鳥。
君は一体、なんで迷子になってたんだ??

1022:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2013/01/09 at 11:56:01 (コメント編集)

何度でも言っちゃいますが、ほーんと丸儲けでした。

唇を突き出してやると、キスもしたんですよ。
よほど馴れていたんだと思います。

> そう、鳥って可愛いけど、トイレの躾は、難しいですもんね。
しつけようという発想がそもそもないです。

> しかし、外に出してもちゃんと帰ってくる文鳥。
> 君は一体、なんで迷子になってたんだ??
そーなんですよ。
もしかしたら、逃避行はノリちゃんにとってつらい旅だったのかもしれません。

1027: by 次席家老 on 2013/01/12 at 11:45:00 (コメント編集)

ちょっぴり切なく,でも心暖まるラストシーン。
と思ったら・・・。まっ,これもありですね。
ここまで家を愛してくれてたら,可愛いでしょうね~。
私は,鳥って,食材にしか見えないですけど。

1028:Re: 次席家老様 by しのぶもじずり on 2013/01/12 at 18:21:43 (コメント編集)

> ここまで家を愛してくれてたら,可愛いでしょうね~。
> 私は,鳥って,食材にしか見えないですけど。

食材ですか。文鳥は食べるところがほとんど無さそうですよ。

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